離れていても君を想う
『無防備』って言葉はあいつの為にあるようなもんだよな。
賑わう市の中で、望美の姿を見失ったのはほんの数分ほど前。
辺りをぐるりと見渡してみてもそれらしき姿は将臣の眼に入ってこない。
一人でフラフラと何処行ってんだか。
ヤレヤレと嘆息する。
好き勝手に動き回っている訳では無いのだろうが、何か珍しいものに眼を引かれてフラフラと行ってしまうのは
現代の世界に居たときと何ら変わっていない。
そう、あいつは変わってない。
俺が心引かれたあの頃のまま。
そして、俺の思いもあの頃のまま。
「どうだい?キレイな品物だろう?」
「わぁ。スゴ〜イ!」
望美を探して市を歩いていた将臣の耳に聞きなれた声が入ってきた。
声の方に視線をやると、案の定、何かを見せられて眼を輝かせて見入る望美の姿。
「何やってんだ、アイツ。」
将臣は大股で望美の所へ歩み寄って行った。
望美に品物を見せる男は、彼女に気付かれないように口端をあげて笑った。
中々の上玉。
それに身に着けている物も高値で捌けそうなものばかり。
何処かのお邸の姫だろうか?
それなら高い身代金を払ってくれそうだ。
男はじっくり望美の品定めをする。
決めた。この娘で大儲けだ。
男は今までで一番優しい顔つきをした。
「・・・・・・でさ、ちょっと面白い物があるから見に来ないかい?お嬢さん。」
そう、商売人の男が卑しく望美に手を伸ばした瞬間。
「俺の連れに何か用か?」
将臣が男の腕をギシリと強く掴んだ。
男は驚き見上げる。
すると、そこには眉を寄せて不機嫌と僅かな殺気を込めて睨み付ける将臣。
「うっ・・・・・・。」
男はただただ、たじろぐだけで声も出ない。
そんな男の手を、放り投げるように開放すると、将臣は今度、望美の手を引き何も言わずにさっさとこの場を後にした。
そうして少し市の喧騒から離れた場所に歩いて行き、ようやく望美を開放した。
「将臣くん!?どうしたの?いきなり?」
状況がわからない望美は小さな抗議をする。
「『どうしたの?』じゃねぇよ。バ〜カ。」
「なっ!何よ。」
「お前、もう少し危機感っていうのを持てくれよ。」
「将臣くんに言われなくても持ってるよ。」
失礼な!と望美の眼が訴える。
将臣は、若干の苛立ちを覚えたが、小さくため息を零して気持ちを落ち着かせた。
「危ないのは戦いの時だけじゃねぇんだからよ。もう少し気をつけてくれよ。」
――――― 頼むから。
そう、真剣に言われては望美は押し黙らずを得ない。
「・・・・うん。判った。」
単独行動に少し罪悪感を持ったのか、望美は少しうなだれて答えた。
そんな萎れた花のような望美に、将臣はフッと優しく微笑む。
いつもの、彼特有の暖かな笑顔で。
「ま。俺が居るときは気ぃ抜いたっていいけどな。」
その言葉は、望美の顔に笑顔をもたらした。
案外、俺も甘いな。
譲の事ばっかり言えねぇよ。
将臣は胸の内で自嘲する。
俺は、ずっと傍に居てやれるわけじゃない。
前ならお前の隣にいるのは当たり前だったから、こんなに気に病まなくたって良かった。
けれど、今は違う。
俺には、俺にしか出来ない、やるべきことが出来ちまった。
お前の傍に居たいと、思う気持ちと同じくらい大切な事が。
笑顔の望美が心残りがあるように市の方を見やった。
「何か気になったものでもあったのか?」
「うん!あっちでね、すっごく可愛い髪飾りが・・・・。」
楽しそうな望美は将臣の袖を引いて今来た通りを指差した。
こいつの傍には居れない。
かと言って、誰かに渡す気も、諦める気も無いんだ。
お前が無防備になるのは、俺の前だけであって欲しい。
そんな、自分勝手な思い。
コレを口にしたら、お前はなんて答えてくれる?
また、一人で駆け出そうとした望美の手を将臣は握った。
「また、迷子になったら困るからな。こうしてやるよ。」
「酷〜い。そんなに危なっかしいかな?」
「自覚ねぇのがまた面倒だな。」
「将臣くん、お父さんみたい。」
「こんな手のかかる子供はごめんだな。」
文字通り、咲いたように談笑しながら二人は目当ての店へと歩いていった。
握った手から染みる体温が、将臣には何だかとても、心地よかった。
〜あとがき〜
15151打御礼SSでございます。
「将臣くんは気持ち自覚済みで無防備な望美ちゃんにヤキモキする話」いかがでしょうか?
横から割って入って「俺の連れに手を出すな。」って感じの将臣くんが書きたくて、
リクエストに便乗してしまいました。てへっ☆(可愛さ不足;)
気に入っていただけたら嬉しいです。
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