幸せな日々










「ふぅ・・・・・。疲れた。」



望美は、腰をトントンと叩きながら腰を下ろした。

懐妊してから数ヶ月、望美のお腹は大きく膨らみ、

流石に体力には自信のあった望美も日々、体の重みを感じる。

家事をしてもいつも以上に疲れる事が多くなってしまった。

その為、こうして休息をとりつつ家事をこなしている。



「望美。大丈夫か?」



体を休めている望美に気づいて、九郎が心配そうに見る。

それを払拭させるかのように望美は笑顔で答えた。



「大丈夫です。無理をしないための休憩ですから。」

「そうか、ならば良かった。」



ホッと胸を撫で下ろして、優しい眼差しを向けてくれる九郎。

それだけで、望美の心は満ち足りる。



「俺も座っていいか?」

「はい!もちろん。」



望美が笑顔で承諾すると、九郎も笑顔で応える。

当たり前のように隣に座る九郎は、ふと、望美の腹に目が行った。



「しかし、本当に大きくなるものだな。」

「そうですよ。赤ちゃんが居るんですもの。



慈愛に満ちた笑顔で、望美は優しく腹を撫でる。



「男の子ですかね。女の子ですかね。」

「そうだな・・・・・。楽しみだな。」

「男の子なら、きっと九郎さんみたいに優しくてカッコイイ男の子でしょうね。」

「女の子なら、望美のように可愛らしい子だろうな。」



褒めあう言葉の後に、お互いに目が合うと。

いまさらなのに気恥ずかしくなってしまって。

赤い顔をそむけ合う。

会話も無いのに甘い空気が流れ、もう一度見つめあったのが合図。

口付けの予感が漂って、望美はそっと目を閉じた。

九郎も赤い顔のまま、望美の頬に手を添えてゆっくり唇を寄せる。



「そういうことは人目が付かないところでお願いできるかい?」



あと数センチの所で、背後からの声に九郎の動きが止まり、

二人は慌てて振り返った。



「やぁ。姫君。会いたかったよ。」

「ヒノエくん!?」

「ヒノエ!?」



そこにいたのは、貿易の途中で立ち寄ったであろうヒノエ。

口元に笑みを浮かべながら、望美の手を取ると熱い眼差しで見つめた。



「久しぶりだね、望美。母の姿になっても、お前の美しさは変わらないなんて、
 流石は俺の神子姫様。」

「もう。ヒノエ君ったら上手いんだから。」

「おや?お疑いかい?俺の本心だよ。」

「ふふ。それなら、ありがとう。」



顔を綻ばせる望美を見て、ヒノエはフゥと息を零す。



「やっぱり、九郎なんか譲るんじゃなかったよ。
 こんな愛らしい姫を独り占め出来るんだからね。
 望美。今からでも遅くない。俺の所へ来るかい?」



女性なら誰もが落ちる甘い声と微笑みを向けて、

今だ握り続けている望美の手に口付けを送る。

けれど。



「ごめんね。ヒノエくん。」



望美はヒノエの手からスルリと抜けて、隣の九郎の腕へ絡みつく。



「私、九郎さんが大好きなんだもの。」



まっさらな笑顔で言われてしまっては、流石にヒノエも打つ手は無い。



「どうやら、割ってはいる隙も無いみたいだね。」



ヒノエは肩を竦めて笑い、踵を返す。



「それじゃあ、退散するとしようかな。夫婦の時間を邪魔する程、
 俺も野暮じゃないからね。」

「なっ!ヒノエ!!」

「姫君。後で可憐な笑顔を見せに来てくれるかい?」

「あ、うん。」

「それじゃ、ごゆっくり。」



からかい気味な言葉を残して、ヒノエはこの場を後にした。

残った二人は互いに、どうしたものかと思案する。

中断されてしまった甘い時間を再開するにも直ぐに出来るわけではなし。

すると、ポコリと望美の腹が蠢いた。

何だろう?

不思議に思ってそっと、手を添えると。

もういちど、ポコリ。

その初めての感覚に望美は言い知れない感激を覚えた。



「く、九郎さんっ!!」

「?何だ?どうかしたのか?」

「い、今!動きました!!お腹の子が動きました!!」

「な、何!?本当か!?」



慌てて九郎は望美の腹に手を添える。

すると、それに応えるように、ポコリとお腹が動いた。



「う、動いているぞ!?」

「ふふ。九郎さんが、触ってくれて喜んでるんじゃないですか?」

「そ、そうか・・・・・。」



そう言われれば、何だかくすぐったいようで

九郎は照れ笑いを浮かべた。



「そうだ!九郎さん。子供、イッパイ作りましょうね。」

「んなっ!!!!急に何を言い出すんだっ!?」



余りに急な話題転換に九郎は吃驚する。



「え?だって、子供は『愛の結晶』って言うじゃないですか。」

「し、しかし。まだ一人も産んでないだろう?」

「でも、イッパイ居た方が何だか九郎さんと愛し合ってる証になる気がして・・・・・・。
 って、九郎さんは嫌ですか?」



下から探るように見つめて問うと、九郎はゴホンと一つ咳払いをして。



「そんなことはない。その・・・・・・俺も、お前との愛の証はたくさん欲しい・・・・・。」



照れてはいるものの、素直な思いを述べた。

それが、とても嬉しくて。

望美は満面の笑みを浮かべると、九郎の肩にコツンと、寄りかかる。

そんな望美に目をやれば、彼女も自分を見上げていて簡単に目が合った。

同じように頬を染め、笑顔を浮かべて。

もう一度、そして今度こそ甘い口付けが交わされる。



暖かな日差し、快い風。

隣には大好きな人。

今日も、幸せな日々が続いていく。




〜あとがき〜
17171打御礼SS。セリさまリクエストの九望でございます。
「大切な君」の続き物でモンゴルで幸せそうな二人。という事で。
勝手にヒノエくん友情出演です。

やっぱ、自分が体験したからか子供絡みの話は親近感が沸きますね。
きっと二人は、良いパパンとママンになることでしょう。

書いててたのしかったです。


   
  ご感想などはこちらからお願いします。
  その際は創作のタイトルを入れて下さいね。