愛情上手










「譲君って、愛情上手だよね?」

「はい?」



突然、そう言われて。

何のことだかさっぱり判らない譲は花に水をやりながら頭を捻った。

有川家の庭には季節に応じて、色とりどりの花や木々が元気良く咲いている。

元々は、星の一族の姫であった祖母が好んで育てていたものだったが、今は譲が管理をしていた。

何故かと、問われれば上手くは言えない。

しいて言うなら『好きだから』だろう。

異世界に居た時も譲は、よく梶原邸の庭を自分なりに手を加えて管理していた。

それこそ、『好きだから』。

望美が、喜んでくれるから。

それ以外の理由は無かった。



「先輩。どういう意味ですか?」



望美が発した一言が、未だ理解できない譲は彼女に問い返す。



「え?だって、よく言うでしょ?『料理上手は愛情上手』って。」



望美は得意げに答えた。



「それに。花のお世話だって上手じゃない。」



望美はそっと、譲の近くの花に近寄って、しゃがむ。



「花は水をあげ過ぎると腐っちゃうでしょ?でも逆にあげ無過ぎると枯れちゃうから、上手に育てられるのは
 花にとって、ちょうどいい愛情を与えてるからだと思うんだ。」



柔らかく微笑んで、望美は譲を見上げた。



「だから。譲君は『愛情上手』!ね?」



やっと、真意を理解した譲はそう言った望美に、今度は困ったような情けなさそうな顔を向ける。



「そんなこと、無いですよ。」



ふと、望美の横に同じようにしゃがみこんだ。



「俺は全然。『愛情上手』なんかじゃないです。」

「どうして?」



今度は望美が頭を捻る。



「確かに、料理も、花の世話も上手く出来てるかも知れないけど・・・・・。」



譲はそっと、目の前の花に手を伸ばす。



「一番好きなものには上手に愛情を与えられないんです。」



手を伸ばした先には枯れた葉がぶら下がっていた。

譲は優しげな手つきでそれを取り去る。



「愛情が大き過ぎて。きっと、ダメにしてしまう。」



水を与えすぎて腐る花のように。

分量を間違えて、食べれなくなった料理のように。



俺は誰よりも独占欲が強過ぎて。

適度な愛情の与え方なんて考えられなくて。

きっと、貴女をダメにしてしまう。



「だから。俺は『愛情上手』じゃないですよ。」



精一杯、優しく笑んで譲は望美の顔を見返した。

望美はジーッと譲の顔を見ている。

そして。



「じゃぁ。譲くん。私が手伝ってあげる。」

「え?」



望美はニッコリ笑った。



「それで、譲君が大事なものをダメにしないように一緒に居てあげる。」



そう、自信満々に望美は胸を張った。



「それで?譲君の一番好きなものって、何?」



興味深げな望美に、譲は笑って囁くように言った。



「先輩の事ですよ?」



少し、意地悪っぽく。

そう言ったのはその言葉に望美がどんな反応をするかが見てみたくて。

すると、望美は意外にも普通の声で。



「なんだ。それなら全然、大丈夫なのに。」



そして、隣に居る譲にまた、得意げな顔で告げた。



「大丈夫だよ。私、そんなに柔じゃ無いから。愛情を与えられ過ぎたからって、腐ったりしないよ?」



またまた、得意げに。

少しねだる様な笑顔を向けながら。



「むしろ、イッパイ愛情を注いでくれないと・・・・・・・。」



 ―――――怒って、枯れちゃうんだから。



そんな可愛い脅迫に、譲はやっと、本当の笑みを零す。



「わかりました。」



照れくさそうに眼鏡を直して。



「枯れられては困りますからね。」

「そうだよ。上手に育てて下さい。」



お互い微笑を交わすと、譲は望美の頬に優しく触れた。

そして。

予告なしに、顔を近づける。

唇から唇へ。

愛情が伝わるように。

優しく、口付けを交わした。


ためらい無く。


持て得る限りの愛を注ぎ込むように。






   
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