雨の日と君と










シトシトと、降り止まない雨を総司はうんざりする様に見つめた。

ここ数日は、梅雨の季節による長雨で満足に出歩くことも出来ない。

毎日屯所へ閉じこもりきり。

傘でも差してわざわざ出かける用事も無いし、気分にもならない。

と、なると大概道場で打ち合いをするか、こうして畳の上でゴロゴロと体を持て余すかのどちらかだった。

見上げた先の曇天に、溜息をつく。



土方さんの邪魔でもして暇をつぶそうかな。



そんな考えが過ぎった総司の下に、静かな足音と緑茶の香りが近づいてきた。



「失礼します、沖田さん。お茶を煎れてきました。」



襖を開き、足音の主は温かいお茶と煎餅を載せた盆を総司の横に置いてくれた。



「千鶴ちゃん。僕、お茶なんて頼んだっけ?」

「いえ。もしかして要りませんでした。」



一体、いつ見つけたのかは知らないが恐らく、総司が暇そうにゴロゴロと寝そべっていたのを見て

彼女なりに気を使ってくれたのだろう。

総司は起き上がると、湯飲みへ手を伸ばした。

淹れたての香ばしさと熱さに、体の芯がほんわかと温まる。

雨とともにジメジメしていた気分が晴れていくようだ。



「ありがとう、千鶴ちゃん。美味しいよ。」



素直に礼を言うと、千鶴は嬉しそうに微笑んだ。

ふと、千鶴も障子の外へ目を向ける。

雨は先程と変わりなく暗い雲から零れ落ちていた。



「沖田さんは、雨は嫌いですか?」



突然、千鶴はそう尋ねた。

用意して貰った煎餅をかじりながら総司も空を仰ぐ。



「そうだね。熱くてジメジメするし、洗濯物は溜まるし、出かけられないし。好きではないかな。」



雨は天の恵みとは言うけれど、この季節のように連日降り注がれては

好きだと思う方が難しい。

総司の意見に千鶴も確かにと、頷く。



「でも、良い事もありますよ。」

「へぇ。何?」



こんな昼間から真っ暗な空を拝ませる雨の良い事とは一体何なのか。

興味を引かれて聞くと、千鶴はお日様のような笑顔で言った。



「こうして、沖田さんとゆっくりお話ができます。」



その言葉に、総司はうっかり手から煎餅を落としそうになる。

言った本人は何のことは無い変わらない笑顔を総司に向けていた。

彼女は時々こんな風なことをしてくれる。

たった一つの言葉、一つの仕草で。

僕の心を波立たせて、惑わして。

落ち着かない。

その癖、彼女は無意識なんだから質が悪い。

総司は仕返し、とばかりに波打つ鼓動を隠しながらいつもの意地悪な笑みを千鶴へ向けた。



「それって、僕とず〜っと一緒に居たいって告白されてるみたいなんだけど?」



ニヤリと、口の端を上げて言うと千鶴の顔が暗がりの中でもわかるほど真っ赤に蒸気していった。



「ち、ちがっ!?」

「あれ?じゃあ、さっきのは嘘?」

「そ、そうじゃなくてっ!!えっと・・・・えっと。」



真っ赤な顔を横に振ったり、手で隠したり。

千鶴は全く持って落ち着きをなくしてしまう。

雨の日もそんなに悪くない。

こんな可愛い君を、ずっと見ていられるのだから。

総司は愉快気に千鶴を眺めて笑っていた。




   
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