微笑みは極上に。
望美達の世界に弁慶は残った。
それはもちろん、望美と居るため。
愛する人の傍に居るためである。
先日来、望美はレストランで『アルバイト』という物を始めたらしい。
その為に合う時間が大幅に減ってしまった。
彼女が希望して決めたことなので弁慶は何も口出しはしなかったが、会えない事は余り嬉しい事ではない。
今日のように仕事が休みの日は一人で過ごすより、望美と居るほうが楽しいはずだ。
しかし、そうは言っても望美がこの場に居るわけでも、現れてくれるわけでもない。
と、そう思っていた弁慶の脳裏にある案が浮かんだ。
望美が居ないなら居る所に行けば良い。
時刻もちょうどお昼時だ。
「ありがとうございました〜。」
お昼のピークを終えて、望美はホッと一息ついた。
客席の食器を片し、テーブルを磨く。
入り口が開いた。
「いらっしゃいませ〜。」
条件反射で挨拶をして、客を迎えに行くと。
「こんにちは。望美さん。」
「べ、弁慶さん!?何でここに??」
突如現れた弁慶に望美はビックリした。
そんな彼女とは違い、弁慶は微笑む。
「君に会いたくて来てしまいました。・・・・迷惑でしたか?」
「いえ。迷惑じゃないです。ビックリしただけです。」
「それは良かった。門前払いされたらどうしようかと思ってました。」
と、そんな事は微塵も思っていない顔で言う。
望美はクスリと笑い、メニューを持って弁慶を席に案内した。
「決まったら、教えて下さいね。じゃあ、ちょっと片してきますから。」
そう言い残し、望美は先程の客席を片付けに戻った。
『それにしても・・・・・・。』
弁慶はメニューではなく望美を見る。
このレストラン特有の制服なのだろうか。
胸を強調するようなエプロン。
膝上までしかないタイトスカート。
他では見たことが無いデザインの制服だ。
長い髪はお団子に結い上げて細い項が良く見える。
その姿は望美には似合いすぎで、愛らしく、いつまでも見ていたい気持ちにさせてくれるのだが・・・・・・・。
「弁慶さん。決まりました?」
一通り片付けて望美は弁慶の下にやって来る。
「いえ。まだ。色々あって迷ってしまいますね。」
「そうですか?ん〜・・・・・あ。このドリアとかお勧めですよ!それか、オムライスも美味しいですし。」
「ふふふ。では、君が決めてくれませんか?」
「え?良いんですか?」
「はい。君が選んでくれた物なら何でも。」
望美は頬が赤くなりつつも、一つ咳払いする。
「え〜と。じゃあ、シーフードドリアと、サラダとスープのセットでいいですか?」
「はい。お願いします。」
「じゃあ、少し待ってて下さいね。」
メニューを持ち、望美はまた去って行った。
弁慶は一生懸命働く望美の姿を愛しげに見つめた。
手を抜くこと無く、頑張る彼女は、よりいっそう可愛らしくて弁慶は飽きる事無く眺める。
そんな彼の耳に隣の席の会話が聞こえた。
「なぁ。あの紫色の髪の子、すっげぇ可愛くねぇ?」
「あ。俺も思ってた。スタイルもいいしなぁ。」
望美の事を言っているのが直ぐに分かった。
彼らも先程から望美の姿を目で追っている。
と、片方が「すみませ〜ん。」と、望美を呼んだ。
望美は元気よく返事をして、小走りで弁慶の隣の席に行く。
「ご注文はお決まりですか?」
そう、笑顔で聞く望美に彼らはメニューを指差しながら注文をする。
そして最後に。
「ねぇ。名前なんていうの?」
と聞いた。
「え?春日望美です。」
望美はバカ正直に答える。
「望美ちゃん、今日はバイト何時まで??」
そう言いながら一人が望美の手を掴んだ。
「はい?」
「バイト終わるまで待っててもイイ?」
「え?いや。それはちょっと・・・・・。」
そう誘われて初めてナンパだったと望美は気付いた。
そして、バカ正直に答えた事を後悔する。
「ね?いいでしょ?」
「いえ。困ります・・・・。」
いつもならこういった類は無視をするか、しつこい時には少し痛い目に合わせたりするのだが
バイトとはいえ、客商売。
無下にすることも出来ない。
どうしよう・・・・。
望美は非常に困った様子で何とか逃げる方法を考えていた。
その時。
「望美さん。どうしました?」
弁慶が望美を後ろから抱きしめるように割って入ってきた。
望美は些か驚いたが、少しホッとする。
そして、弁慶は男達に目を向け極上の微笑みで彼らに話しかけた。
「君達、僕の恋人に何か御用ですか?」
「え?こ、恋人!?」
男は動揺して望美の手を離した。
「はい。よろしければ彼女はまだ仕事の途中なので、僕が代わりに伺いましょう。」
「あ、いや・・・・・。」
更に、今度は望美に向き直り
「さぁ。彼らは僕に任せて、君は仕事を続けてください。」
「へ?あ。はい・・・・。」
と、望美を下がらせた。
望美の姿が見えなくなってから、弁慶はもう一度男達に視線を戻し
「では、伺いましょう。」
と、穏やかそうな笑顔で言った。
「あれ?」
弁慶が注文した料理を持って望美が来たとき、既に先程の男達が居なかった。
弁慶は何事も無かったように元の席に座っている。
「弁慶さん。さっきの人たちは・・・・・?」
「あぁ。彼らなら、用事を思い出したそうで帰っていきましたよ?」
「用事?ふぅ〜ん・・・・。あ!さっきはありがとうございました!」
料理をテーブルに置き、望美は大きく頭を下げた。
弁慶が入ってきてくれなかったら手を出していたかも知れない。
そしたらバイトはクビになっていただろう。
「礼には及びませんよ。僕も我慢の限界でしたから。」
「?」
そう言う弁慶は先程と同じような穏やかな笑顔。
けれど、望美を見つめる目は驚くぐらい苛立つ色が見える。
我慢の限界だった。
初めは仕事上、彼女の男をそそってしまいそうな装いを、自分以外に見られてしまうのは仕方ないと思っていたのだが。
自分以外の男に望美を触られる事は、如何弁慶でも許せなかった。
もしあのまま自分を諌めながら入り込まなければ何をしていたか自分でも分からない。
―――――僕も結構、心の狭い男ですね。
と、自嘲するかのように笑った。
「そうだ。これからは休みの日はこうして会いに来ましょうか。」
「はい?」
「そうすれば君に会える時間も増えますしね。」
ニッコリと微笑まれ、望美は照れくさい反面とても嬉しかった。
「それじゃぁ、弁慶さんは常連さんになりますね。」
「そうですね。メニューを一通り頼めてしまうかもしれませんね。」
「ふふふ。じゃぁ、サービスしてあげますよ。」
「えぇ。お願いします。」
そう言った時、また客が入ってきた。
望美は弁慶に手を振って入り口に駆けていく。
その愛らしい恋人を弁慶は優しく見守っていた。
〜あとがき〜
弁さんは、彼らに何をしたんでしょう・・・・・。
@何かを盛った。
A力でねじ伏せた。
B言葉巧みに脅迫した。
弁「やだなぁ。僕がそんな事をすると思います?」
はい。思います。
ちなみに望美ちゃんのバイトの制服のモデルは『アン○ミラーズ』
可愛いくて萌えます。(変態!?)
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