ドキドキ
「神子!」
散策から帰ってきた望美をぎゅっと、白龍は抱きしめた。
「おかえり!神子。待ってたよ。」
「た、ただいま。白龍。」
成長後の白龍は以前と変わらない態度で望美に接する。
本人にとっては何も可笑しいことはない。
ほんの少し、質量が増しただけ。
その程度の認識しかない。
けれど、傍から見れば大の男が女の子に抱きついてる姿は
ただの熱々カップルのよう。
望美は気恥ずかしさから以前より白龍と距離を置くようにしていた。
故に、今日も抱きついてきた白龍から何気なく体を離す。
あくまで、そっと自然体で。
しかし、白龍は悲しい顔になる。
「神子・・・・・。」
しょんぼりと項垂れる白龍。
そして、口から出たのは思いがけない台詞。
「神子は、私が嫌い?」
予想だにしていなかった言葉に望美は慌てる。
「え!?そんな事無いよ。」
「でも、神子は私が触れるのを嫌がる。」
尚も、落ち込んだままの白龍を目にして、望美は更に慌てた。
「嫌がってなんか無いよ!?」
「では何故抱きしめたら逃げてしまうの?」
「そ、それは・・・・・」
ドキドキしちゃうから。
望美は顔を赤くしながら答えた。
大きくなった白龍はとても魅力的で、傍に居るだけでドキドキしてしまう。
なのに、抱きつかれたりなんかしたら・・・・・・
望美は自分の心臓が張り裂けそうになるのが容易に想像できた。
しかし、白龍はキョトンとした顔。
そして。
「『ドキドキ』とは何?」
思わず望美はズッコケそうになった。
いや、しかし。
相手は神様。
人間が勝手に作った、感情表現など理解していないのは当然かもしれない。
そう納得すると望美は不本意ながら『ドキドキ』の解説をする。
「う〜んとね・・・・。心臓がいつもより早くなるの。それが『ドキドキ』」
「それはどうして?」
「それは・・・・・。」
「それは?」
大好きだから。
言った途端、望美はハッとした。
これじゃあ、白龍に「好き」と、告白したと同じこと。
望美は、あわあわと動揺しだす。
けれど、突然。
ふわり、と体が宙に浮いた。
白龍が嬉しそうに望美を抱き上げたのだ。
「神子!神子はこうすると『ドキドキ』する?」
「え!?う、うん。」
しないわけが無い。
白龍の逞しい腕に抱かれ、顔がいつもより近い位置にある。
ドキドキしない訳が無い。
望美の返事を受け取ると、白龍は更に嬉しそうな顔になる。
「私も、神子を抱きしめると『ドキドキ』するよ。」
「ホ、ホント?」
嬉しい告白に望美はビックリする。
白龍は幸せそうな表情で更に望美を抱きしめた。
「うん。きっと神子の事、大好きだからだね。」
その言葉に望美の心臓は早鐘のように高鳴る。
ドキドキ
ドキドキ
と煩いくらいに。
不意に白龍が望美の胸にピタリと顔を寄せる。
「は、白龍!!??」
もう限界なくらい望美の心臓は脈打った。
すると、白龍はにこやかに笑う。
「神子。いっぱい『ドキドキ』しているよ。」
神子も、私を大好きだから?
小さな頃と変わらない瞳が無邪気に問いかける。
望美は赤い顔のまま小さく頷いた。
そして。
更に抱きしめながら
チュッと口付けられた。
白龍は無垢な笑顔を望美に向ける。
「大好きな人とは口付けるんだよね。私は神子が大好きだよ。」
望美は一瞬にしてゆで蛸の様になった。
と、同時に浮かび上がった疑問。
―――――どうして『ドキドキ』は知らないのに『キス』は知ってるの!?
「ん?どうしたの?神子。」
口を魚のようにパクパクさせながら動揺する望美を白龍は不思議そうに眺めていた。

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