笑顔の裏に










「いい天気〜。」

望美は朔から貰ったおやつを口に運んだ。

心地よい穏やかな時間が流れる。
まるで何事も無いかのように。

「ホントに戦なんてしてんのかな?」

何度も戦場に立った自分が言うのもおかしな話だ。
けれど、熊野で過ごす時間は戦の真っ只中という事を忘れてしまう。

「あれ〜?望美ちゃん何してんの?」

後ろから聞こえる恋しい人の声。
嬉しくて笑顔で振り返る。

「景時さん。」
「おやつの時間だった?」
「はい。一緒に食べますか?」
「うん。ありがとう。」

景時は望美の隣に腰を下ろす。
ふわりと梅の香りがした。

何だか落ち着く優しい匂い。

それはきっと好きな人の香りだから。

「天気いいよね〜。洗濯物日和だよ〜。」
景時は気持ちよさそうに背伸びをする。

「そうですね。ポカポカしてて気持ちいいです。」
望美も笑顔で答える。

「だよね〜。昼寝なんかしたら最高だよ。あ〜。でも朔に邪魔!とか言われちゃうかな〜。」
お菓子をつまみながら冗談を口にする。

ふと、望美の脳裏に朔の姿が浮かぶ。
景時の言うとおりの姿が想像出来て、なんだか可笑しい。

「朔って、景時さんのお姉さんみたいですよね。」
「ホントそうだよね〜。俺も兄としての威厳がガタ落ちだよ。」

困ったように軽く溜息を吐く。

「もっとこう偉大な兄っぽくなってみようかな?こう、胸を張って、ふんぞり返って・・・・・。」

すると、景時は今言ったように胸を張り、腰に手を当ててふんぞり返る。
ちょっと偉そうな顔つきをして。

けれど、その姿はあまりにも似合わなくて、
望美はプッと噴出した。

「あれ〜?変かなぁ?」
「はい。似合ってないです。」

クスクスと笑いながら答える。



いつもの景時さんがやっぱり一番です。



「そ、そうかな?」
「はい。」
不意に零れた、望美の笑顔と言葉に景時は少し照れたように顔を掻く。



『その笑顔は反則だよ。』



景時は心の中でぼやく。
そんな笑顔で、そんな事言われちゃったら。



今よりも、もっと好きになってしまう。
そうしたら・・・・



「あ〜。でもホント天気いいよね〜。」
話を切り替えようと、顔を上げ空を見た。
些か強引に話題を変える。

それを知ってか知らずか、望美も顔を上げる。

「そうですね。いい気持ち。」
「穏やかだよね〜。」
「戦なんて無いみたいですよね。」
「そうだね。こんな時間が続いてくれればいいのにね。」

景時はそっと悲しい笑顔になる。


こんな時間が続けばいい。


戦が終われば、君は俺の前から消えてしまうから。


そう、どんな形であれ。


君と過ごす穏やかな時間。
幸せな気持ち。

戦が終わったら二度と、手にする事は叶わない。

情けなくて恥ずかしいけど。
悔しくて仕方ないけど。

俺には何の力も無いし、どうする事も出来ないから。


せめて笑顔を。


君に笑顔を送りたい。

俺の一番好きな、君の笑顔を刻みつけたいから。



「そうだ!朔に買い物を頼まれてたんだ。」
景時は思い出したようにポンッと手を打つ。

「早く行かないと怒られちゃうなぁ。」
やれやれと腰を上げた。
途端、望美の顔に寂しさが見え隠れする。

それをちらりと見やり、景時は優しい笑顔を作る。
「一緒に行かない?」

望美は差し出された手を満面の笑顔でつないだ。

そんな笑顔を作り出せたことが


嬉しくて、


悲しくて。


それを隠すように景時も笑顔を見せた。

笑顔の裏に気持ちを隠して。



〜あとがき〜
切ないよ〜。何でだよ〜。景さんファイト〜!!
景さんの笑顔を見てると切なくなります。
きっと色んな気持ち隠して、仕舞い込んで。兄ちゃん頑張りすぎだよ。


   
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