I want










「ヒノエくんの好きな物って何?」

唐突に、けれど真剣な面持ちで望美は俺に問いかけた。


好きな物?
そんなの決まってるだろ?


「望美だよ。」


さも、当たり前のように口にすれば、
望美はすぐに赤くなる。



―――――可愛いね。



「そ、そういう事を聞いてるんじゃないの!!
 ヒノエくんが今、欲しい物を聞いてるの!!」

照れ隠しなのか、半ば叫びがちになる望美。

そんな姿も可愛くて、抱きしめたくなる。


「欲しいものは、お前だよ。望美。」


すると、望美はもっと赤くなった。


「もう!からかってばっかり!」


おや?
今度は機嫌を損ねてしまったかな?

望美は怒った顔になり立ち上がる。


「弁慶さんに聞くからもういい!!」


そう言って望美は俺に背を向けた。
けれど、俺は姫君の腕を掴む。


「な、何!?」


引き止められ、驚きの声を上げる望美を
寂しげな表情で見つめた。


「姫君は俺を放って他の野郎のとこに行くのかい?つれないね。」
「ヒノエくんが、からかうからでしょ!!」
「からかってなんかいないさ。」



 本心だよ。



真剣な瞳で言えば、怒った顔が変化する。


照れたような、でも喜びを含んだ顔。


ホント、お前はどうしてこんなに可愛いんだろうね。



好きなものは、お前。

欲しいものも、お前。

聞かなくたって分かるだろう?



ふぅ、と小さく溜息を吐きながらもう一度
望美は俺の横に座った。

そして、子供に説明するかのように優しく話す。

「あのね。ヒノエくんの誕生日に何が欲しいかを聞いてるの。」


なるほどね。

俺は最初の問いかけの意味を理解した。
誕生日ってのは確か、生まれた日を祝うんだったな。

その祝いの品を聞いてたわけか。

でも、その意味を知っても俺の頭に浮かぶのは唯一。




 欲しいものは お前。




口にすれば、また赤くなる望美。

「それも、本心?」
上目遣いで探るように見つめてくる。


「もちろん。」
俺は柔らかな微笑みを向けた。

お前を思う、俺の気持ちが少しでも伝わるように。


途端、甘い香りが近くなる。



そして。



掠めるような一瞬の口付け。



驚いて見つめれば、
望美の赤い顔がもっと赤くなっている。


「・・・・・参ったな。」


俺は自分の口元がどんどん緩んでいくのを感じる。


突然の嬉しい衝撃。


恥ずかしそうに俯いたままの望美の顎をそっと持ち上げた。



今度は俺が、



深い口付けを与える。



顔を離すと、少し膨れっ面の望美が居た。

「姫君は何がお気に召さなかったのかな?」
「・・・・・ズルイ。」

一体、何がズルイのか。
心当たりが多すぎて分からないんだけど。

「自分ばっかり余裕でズルイ。」

膨れっ面なままの望美がそうぼやいた。


俺は思わず笑みを零す。

ホントは余裕なんて無いさ。
お前があまりに魅力的だから。


これでも結構、一杯一杯なんだけどね。


だけど、あんまり格好悪いトコは見せたくないから。

あくまで平静を装ってみる。



俺ともあろう男が随分と滑稽な姿。



でも。悪くは無い。

心惑わすのは他ならぬ姫君。



―――――お前だけ。



だから、お前も俺に惑わされて欲しい。
俺と同じくらい。






「あ!そうだ!!」

思い出したように手をポンと叩き
お前は俺に笑顔を向ける。


「ヒノエくん。誕生日おめでとう。」


唐突に、赤い顔のまま優しい笑顔でそう言ったお前が


あまりにも可愛くて


愛しくて


もう一度、口付ける。



アリガトウの気持ちを込めて。





〜あとがき〜
ヒノエさんおめでとうございます!!
誕生日ですから甘く甘くと、意識して書いたらこんなんなりました。
「誕生日プレゼントはお前」的な事言われたい・・・・・
そんな作者の妄想から生まれたんですね。ハイ。


   
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