星に願いを(布都彦編)
輝く星に心の夢を
祈ればいつか叶うでしょう
「姫?如何いたしましたか?」
満天に輝く星を見上げながら歌を口ずさんでいた千尋に気遣うような声が掛けられた。
振り返った先には真面目な顔でこちらを伺う布都彦の姿。
彼は千尋の隣へ歩み寄る。
立ったままでいるのも失礼かと思い、少し離れた場所に座った。
「うん。星がね、綺麗だから思わず歌っちゃった。」
「左様でございましたか。確かに、美しい夜空ですね。」
数多のきらめく星々はどこか神秘的で、願いを叶えてくれそうな気にさせる。
きらきら星は不思議な力
あなたの夢を満たすでしょう
「ねえ、布都彦の願いって何?」
「私の・・・・・願いですか?」
唐突な質問に布都彦は一瞬考え込む。
けれど、その答えは直に浮かんで来た。
「もっと・・・・・強くなりたいです。」
この国を守る為に、戦を終える為に、
どんな時も揺らぐことの無いような強さ。
「布都彦らしいね。」
実直な彼の、彼らしい願いに千尋は微笑む。
「でも、布都彦は今でも十分強いよ?」
「いえ。強さに限界などありません。」
理想は高く、己を律するには見下ろす事はしない。
そうでなければ、兄のように強くはなれない。
「そうだね。布都彦ならきっと叶うよ。」
まるで背中を押すように千尋は強く頷いた。
それが、布都彦の心を堪らなく喜ばせてくれる。
釣られるように、恥ずかしげに布都彦も微笑んだ。
良き主に巡り合えれば臣は幸福だという。
これほどに良き方に巡り合えたことは初めてだ。
優しく、暖かく。
この方ならばきっと、良い国を作ってくださる。
そんな貴女を守る為に、強くなりたい。
温まる思いの隣で空を見上げる千尋の横顔が布都彦は輝いて見えた。
けれども、それを振り払うように顔を背ける。
この忠誠は恋情から来る物なのか?
そう、頭を過ぎったことは初めてではない。
私も、兄と同じ道を歩むというのか?
兄と一の姫の恋は誰も幸せにならなかった。
親も、兄弟も、その当事者たちも。
苦しみと、悲しみが連鎖するように皆を巻き込んでいっただけ。
兄を尊敬する思いの反面、そうなりたくないと反発する思いが布都彦を締め付けた。
人は誰もひとり
悲しい夜を過ごしている
「ねぇ、布都彦。私も、強くなりたいな。」
天を仰ぎながら、不意に千尋は言った。
背けた顔を戻すと、千尋の瞳は今まで見たことの無いような強固な輝きを映し出している。
「・・・・心の強い人になりたい。」
王として、揺るがない心の強さ。
何があっても、真っ直ぐ立っていられるように。
真っ直ぐ、前を見つめていられるように。
「・・・・・・姫。」
布都彦は抱きしめたい衝動に駆られた。
王とは如何なる時も俯いてはいけない。
涙一つ自由に流すことさえない。
目の前の歳もそう変わらないこの少女の身に掛る責の大きさ。
それに潰されないように懸命に前を見るその姿が、痛いほど愛しく見えた。
兄上、貴方もこんな思いだったのですか?
「姫。もう一つ、願っても宜しいですか?」
貴女の責を替わることは出来ないけれど、
せめて倒れてしまわぬように
潰されてしまわぬように
隣で支えることが出来たなら。
星に祈れば寂しい日々を
光り照らしてくれるでしょう
「姫の・・・・・お傍にお仕えしとうございます。」
その願いに、千尋は嬉しそうに笑った。
「こちらこそ!よろしくね、布都彦。」
返された笑顔と同じくらいに微笑んで、二人はまた空を見上げた。
いつまでも、隣同士で。
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