星に願いを(柊編)
輝く星に心の夢を
祈ればいつか叶うでしょう
「姫?寒くはございませんか?」
満天に輝く星を見上げながら歌を口ずさんでいた千尋に柔らかな声が掛けられた。
振り返った先にはニッコリと微笑む柊の姿。
彼は千尋に倣うように横へ座った。
そして、空を見上げる。
「姫の美声に星が歓喜しているかのようです。」
「そんな。おおげさな・・・・。」
「いえ。本当でございますよ。ご覧ください、あの輝きを」
数多のきらめく星々はどこか神秘的で、願いを叶えてくれそうな気にさせる。
「姫の類まれなるお力の賜物でしょう。」
「もう、柊ったら。」
千尋はクスクスと笑う。
例え、星の一族の力など無くとも見上げた星の輝きを見れば誰でも判る。
美しい我が君の姿に星も月も頬を染めているのですよ。
きらきら星は不思議な力
あなたの夢を満たすでしょう
「ねえ。柊の願いって何?」
「私の事を御知りになりたいのですか?」
「うん。駄目?」
「拒むはずもありません。我が君のお言葉ならば。しかし、願いですか・・・・。」
柊は珍しく千尋の質問に考え込む。
『願い』など、最後にかけたのは一体いつだろうか?
神の定めた規定伝承を前に、人の願いとは余りにも小さく弱い。
一つ読み解く度に『願い』や『希望』は色を失って行った。
人は無力で、神に抗うことも出来ないものだと。
失った右目をそっと撫でた。
あの日、あれほど己の無力を呪ったことは無い。
星を読み、未来を知っていてもどうすることも出来なかった。
かけがえの無い友も失った。
残された道は只々、神の定めた道を歩む事のみ。
そんな道程の中で、願う事も思う事も忘れた。
願えば願うほど、それが無意味だと知ったとき
絶望とは色を増す物だから。
人は誰もひとり
悲しい夜を過ごしている
「・・・・・私の願いは姫が健やかであられることです。」
ニッコリといつものように微笑む柊を千尋はジッと見つめた。
海のような蒼瞳に吸い込まれそうだと柊は感じる。
全てを見透かすような不思議な目。
きっと、聡い貴女には判っているのでしょうね。
臆病で愚昧な私の胸の内が。
けれど、千尋は何も言わず穏やかに微笑んだ。
そうして、もう一度空を見上げると。
手を組み、頭を下げて星へ願う。
「柊が、本当の願いを見つけられますように。」
「姫・・・・・。」
「誰の為でもない、自分だけの本当の願いを見つけられますように。」
願い終わると、千尋はゆっくり、こちらを見た。
「そうしたら、その時は教えてね。」
全ての憂いを流してしまうような笑顔に、柊は不覚にも涙を零しそうになった。
人は誰しも願いが生まれ続ける。
けれども、それが叶わないと知っているから。
願うことが怖くなった。
だから願うことをやめた。
それなのに。
「・・・・・逃げるな。ということですか?」
柊は、どこか嬉しそうに笑んだ。
まるで、勇気付けられたように肩の力が抜けていく。
星に祈れば寂しい日々を
光り照らしてくれるでしょう
「我が君の仰せのままに。」
恭しく頭を垂れる。
自分でも驚く程、穏やかな思いが彼の心を埋め尽くした。

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