星に願いを(那岐編)










輝く星に心の夢を

祈ればいつか叶うでしょう



「何してんの?」



満天に輝く星を見上げながら歌を口ずさんでいた千尋に無気力な声が掛けられた。

振り返った先には若干呆れたような那岐の姿。

彼は千尋に倣うように横へ座った。

そして、空を見上げる。



「何?ピノキオにでもなったつもり?」

「違うよ。あんまり綺麗だからつい・・・・。」

「ふ〜ん・・・・。」



数多のきらめく星々はどこか神秘的で、願いを叶えてくれそうな気にさせる。




きらきら星は不思議な力

あなたの夢を満たすでしょう




「何?叶えて欲しい願い事でもあるわけ?」

「え?そうだなぁ・・・・・。」



空に輝く星を青瞳に映して千尋は自分の願いを考え浮かべる。

けれど、一つに絞り込む事が出来なくて

千尋は隣で空を見上げたままの那岐に問いかけた。



「ねぇ。那岐の願いって何?」

「質問に質問で返すってどうなのさ?」

「だ、だって。思い浮かばないから参考までに・・・・・。」

「僕の願いを聞いたって千尋の参考にならないと思うけど?」

「そうかな?聞いてみないと判んないよ。」



上目遣いに強請る千尋に根負けて、那岐は「はぁ〜。」と大きな溜息を着く。

立てた膝に頬付けをついて千尋の問いに答えた。



「一日が36時間になりますように。」

「・・・・なんで?」

「そしたら、昼寝の時間が増えるだろ?」

「36時間にならなくたって那岐はもう十分寝てるよ。」

「じゃあ、きのこスパ食べたい。」

「昨日、きのこ鍋食べたじゃない・・・・・。」

「なら、きのこグラタン。」

「もう。那岐ったら!!」



からかう様な答えに千尋はプゥッと頬を膨らませた。


きっと、千尋の願いが思いつかないのは願いがあり過ぎるから。

自分のことも、他人のことも思い過ぎて。

頭が追いつかないほど。

逆に、僕が思いつかないのは願いが無いから。

別にそんなにきのこが食べたいわけじゃないし、

一日が36時間増えたってどうでもいい。

願ったところで、どうにかなる訳じゃない。

叶うわけの無い願いをするぐらいなら

願うだけ無駄だろう?



「だから、参考にならないって言ったろ?」




人は誰もひとり

悲しい夜を過ごしている




那岐がそう言った途端、千尋は手を拡声器のように頬に立てると少し大きめの声で

天に届くように言った。



「那岐の頭にきのこがイッパイ落ちてきますよ〜に〜!!」

「・・・・・は?」

「それから、私も一日が36時間になったら嬉しいな〜!!」

「何言ってんの?」



突然の千尋の言動に那岐はいつに無く戸惑った顔をする。

すると、千尋は満面の笑顔で那岐を見つめ返した。



「だって、一つに絞れないんだもん。だから、思いつく願いを全部言ってみようかなって思って。」



そうしたら、大事な願いが思い浮かぶかもしれないから。



『無い』と言ってしまうのは簡単だけれど。

もしかしたら、心のどこかに隠れているだけで見落としているのかもしれない。

だから、思いつくまま願っていけば

いつか大事な願いを見つけられるかもしれないから。

諦めるのはそれからだって遅くない。



「・・・・・・その理屈で行くと千尋の場合相当時間掛りそう。」

「そうかな?」

「一日じゃ足りないんじゃない?」

「そしたら、毎日するもん。」

「星もいい迷惑だと思うけど?」



呆れた口調で言いながら那岐はそっと片手を頬に立てる。



「一日が36時間になりますように〜。」



わずかに声を大きくして千尋のように星に届くように言った。

那岐の思わぬ行動に千尋は一瞬目をパチクリさせたが、直に笑顔になって

再び空へ声を届ける。


優しい彼女の願いはきっと、24時間じゃ足りないから。

プラス12時間。

まずはそこから。




星に祈れば寂しい日々を

光り照らしてくれるでしょう




「那岐の背が大きくなりますように〜!」

「千尋の頭がよくなりますように〜。」



その声は夜遅くまで天に響いた。




   
  ご感想などはこちらからお願いします。
  その際は創作のタイトルを入れて下さいね。