星に願いを(忍人編)
輝く星に心の夢を
祈ればいつか叶うでしょう
「何をしている。」
満天に輝く星を見上げながら歌を口ずさんでいた千尋に手厳しい声が掛けられた。
振り返った先には怪訝そうな顔で見つめる忍人。
彼は千尋に歩み寄るとジッとこちらを見据えて千尋の返事を待つ。
千尋は少し肩を窄めて答えた。
「星が綺麗だったんで・・・・・・つい。」
千尋は叱責されるであろうと、身構える。
けれど、それはやってくることは無く、反対に。
「・・・・そうか。」
という返事が返ってきた。
そして、千尋の横に倣うように座り空を見上げる。
「・・・・・気持ちは判る。」
そう、言って空を見上げる忍人の目は穏やかだった。
満天の星空の力だろうか?
数多のきらめく星々はどこか神秘的で、願いを叶えてくれそうな気にさせる。
きらきら星は不思議な力
あなたの夢を満たすでしょう
「忍人さんの願いって・・・・何ですか?」
不意の質問に、忍人は表情を変えずにこちらへ振り返った。
「星にかける願いなど無い。」
願いは己の力でかなえる物。
誓うのは自分の心の中だけでいい。
そしてそれを叶えるのも諦めるのも自分の心。
天に輝く星や、神々に祈るものでは無い。
その彼らしい答えに、千尋は虚を付かれたような顔になる。
忍人は自嘲気味に笑った。
「夢の無い男だと呆れたか?」
すると、千尋は首をブンブンと横に振る。
「違います!その・・・・・忍人さんらしいいなぁって。」
微笑む千尋に、忍人も笑みを返す。
「君は、何か星に願ったのか?」
「あ。はい。」
千尋は視線を星空へ戻した。
煌く星々に、もう一度願うように呟いた。
「皆が、幸せになりますように。」
「随分、漠然とした願いだな。」
「そうですか?でも、そうなったら嬉しいから。」
「神頼みだけでは叶わないと思うが?」
そう、少し厳しい言葉で言うと、千尋は曇りの無い笑顔を浮かべた。
「そうですね。でも、口にしたら、誰かが聞いてくれたら
何が何でも叶えなきゃって思うから。」
願うというよりは宣誓に近いのかもしれない。
叶う保障も何も無いからこそ
口にしたいと思った。
そうでもしなければ、大きな願望に目を逸らしてしまいそうだったから。
人は誰もひとり
悲しい夜を過ごしている
「口にしなければ不安なのか?」
「・・・・・・ごめんなさい。」
叱責されたと思い、千尋は俯いて謝る。
「・・・・・謝らなくていい。」
忍人は優しい声音でそう言うと千尋の頭を、ポン、ポン、と2・3回軽く叩いた。
不安な気持ちは誰しも持っているもの。
かく言う俺とて、同じだ。
けれど、それを恐れても怖がってでも
逃げないで立ち向かうからこそ。
乗り越えられるのだろう。
千尋はそれを成そうとしている。
忍人は小さな声を出す。
「皆が、幸せであるように。」
その願いに俯いていた顔を上げた千尋は驚くような顔で忍人をみた。
忍人はそれに気付いて、落とすように笑む。
「俺も君と同じだ。」
必ず叶えるために。
星へ誓いを立てる。
千尋の顔から不安は一気に消えた。
そして、代わりに力強く一つ頷く。
星に祈れば寂しい日々を
光り照らしてくれるでしょう
二人は、空を見つめ続けた。
願いの果ての未来を描きながら。

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