乙女心










「はぁぁぁぁ〜。」


晴天の昼下がり。
縁側で大きな溜息を吐いたのは望美だった。

そこへお茶と菓子を持って現れたのは親友・朔。

あまりにも盛大な溜息に朔はビックリする。


「望美?どうしたの?」


朔の呼びかけに望美は嬉しそうに振り返った。


「朔!!朔なら分かってくれるよね!!私の悩み!」

「どうしたの?私で良ければ話して頂戴。」

「実は・・・・・・・」


望美は朔の優しい言葉に導かれながら悩みの原因を呼び起こした。





京の市へ買い物に来るのはとても楽しいもの。
女の子にとって買い物は何故だかウキウキしてしまう。

それは、異世界であっても変わらないらしく市には年頃の女の子も多かった。


そして。


異世界であってもやはり変わらない物がもう一つ。



女の子の黄色い声である。



「見て!源氏の総大将、九郎様よ!!」

「相変わらず凛々しくて素敵ねぇ。」

「あら。弁慶様も素敵よ。」

「あの青い髪の方と赤い髪の方はどなたかしら。」

「どちらも男前ね。」

「眼鏡の人も可愛らしいわ。」

「梶原様も素敵ね。」

「鬼の方もお顔を拝見したいわ〜。」

「小さな男の子も可愛らしくて良いわねぇ。」



望美はこの8人の美形集団と一緒に行動することが多い。

それは『龍神の神子』と『八葉』であるが故、仕方のないことなのだが。

そんな諸事情を知らない人々から見れば


望美は8人の美形を従えて悠々と闊歩しているようにしか見えないようだ。


更に


『姫君』 『可愛い人』


など一目も憚らず口説き文句のような言葉を並べられ


『神子!大好き!!』


と抱きつかれられれば当然。



「何なのあの娘!」



となるのは一目瞭然。




「はぁぁぁ〜〜〜〜。」


一通り回想を終え、望美はまた深い溜息を零す。

そんな彼女に朔はお茶を勧めた。


「そりゃぁね。あんな美形8人も一緒じゃ目立つに決まってるよ〜。」


黙ってお茶を啜っていた朔はある一言に反応する。


「待って、望美。その『美形』に兄上も入ってるの?」

「え?そうだよ。景時さん人当たりもいいから結構人気あるよ?」


一緒に歩いていて、声を掛けられた時など景時はいつもニコニコ顔で対応する。
例え、誰であっても嫌な顔ひとつせず。


「そうなの?ただのお調子者よ?」


怪訝そうな朔の台詞に望美は苦笑した。

そして、お茶を啜りながら少し心が落ち着いてきた望美は遠い目をする。


「向こうにいた時もね。将臣くんと譲くんと一緒に居ると女の子の視線が痛くてね・・・・・。」

「まぁ。ドコの世界でも同じなのね。」

「先輩とかに呼び出されたり、そりゃぁ豪い目にあったよ。」


嫌な過去を思い出すかのように荒んだ表情の望美を朔は宥めた。


「でもこちらでは呼び出しは無いでしょ?」

「うん。けど、あの視線は痛いよ〜。」

「まぁ。気持ちは分かるわ。」

「でしょ〜?」


やっぱり持つべき物は話の分かる女友達だと、望美は思った。

同じ立場で聞き上手。



神様、仏様、朔様。



望美は手を合わせて拝みたくなる気分だ。


「朔はそんな目にあった事無いの?」

「私?そうね・・・・・殿方と共に過ごすなんて事。今まであまり無かったから。」


武家の娘として、良い夫の下に嫁ぐため、あまり他の男と噂が立ち上るのは
褒められたものでは無い。

そのため、今のように長い時間男性と過ごす事などあまり無かった。



それに、黒龍が居たから。



周りの目なんて気に出来ないほど恋をしていたから。



望美の悩んでいるような場面にはあまり遭遇はしていなかった。


「それに、私は尼僧だから。そういう対象には見えないんじゃないかしら?」

「え〜?そうなの??」


望美はチョッピリ残念そうだ。
それを見て朔はクスリと小さく笑う。


「でも望美。何も落ち込むことは無いわ。」

「え?」


不思議そうに望美は朔を見つめる。

朔は優しい笑顔で望美を励ますように言った。


「そんなに皆が敵視するのは、それだけ貴女が魅力的な証拠じゃない。」

「えぇ!?魅力なんかないよ??」

「あら。自分の事には無頓着なのね。」


クスクスと可笑しそうに朔は笑う。

望美は自分が『魅力的』と言われてもしっくりこないようだ。



8人の美形集団がくっついて行く意味が分かってないのかしら?



朔はまだ笑っている。



美麗な殿方に夢中になる女性がいるのだから、

可愛い女性に夢中になる殿方もいるのは当たり前。


とりわけ、明るく元気で可愛い笑顔を振りまく、薄紫の髪をなびかせる娘は
市に来る男性の目を引いてやまない。



気付いてないのは本人だけ。



いち早く、その事に気付いた8人の男達が付いて回ってるのは

牽制と虫除けのため。


そして、他の八葉達に出し抜かれないようにするため。


その事に望美は全然気付いていない。


「望美。自信を持って。あと、気にしちゃダメよ。」

「そ、そう?」

「あら?それとも特別気になる方が居るの?」

「え?全然そんな事ないよ?」

「まぁ。じゃあ気になる方が出来たら教えてね。」

「うん!一番に相談するよ!!」


笑顔が戻った望美は朔と楽しそうな笑い声を響かせながら
おしゃべりの時間を興じるのだった。



「全然かよ。」

「まぁ。まだこれからだけどね。」

「ふふふ。君には負けませんよ?」

「朔・・・・・酷いなぁ。」

「景時さん、元気出して下さい。」

「お前達、立ち聞きは良くないと言ってるだろうが!」

「九郎も一緒に聞いてたよ?」

「うむ。問題ない。」


柱の影に隠れながら、出るに出られない集団が居たとか。



   
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