事実は小説よりも奇なり
「・・・・・どういう、事だ?」
夏休みも終わりに差し掛かった頃。
知盛の家に来ていた望美が話した夏休み最後の予定。
それを聞いた途端に知盛の顔が一気に不機嫌になった。
「え?だから、旅行に行くんだってば。将臣くん一家と一緒に。」
と、先程話したことを簡潔にまとめて繰り返す。
しかし、知盛は益々もって、不機嫌さに拍車が掛かった。
「何故、有川と行くんだ。」
「?別に、将臣くんとだけじゃないよ?将臣くんの両親も、譲くんも一緒だし、ウチの両親も行くんだし。」
お隣の仲良し一家との旅行は別にこれが初めてなわけではない。
小さい頃から夏は、海やプールと一緒に遊びに行ったりすることは当たり前のようにあった。
ただ、子供達が成長するにつれて、学校の用事や何やらと時間が合わなかったため、最近はそういう機会は減ってきていて
それでも、仲の良い親達の希望で、今回、旅行に行くことになったのだ。
将臣曰く。
「親孝行の一環だな。」
そのため、譲も、部活を休んだし、望美も友達との約束を全部キャンセルした。
そして、知盛にもそのことを教える為にわざわざ来たのだが・・・・・・。
『なんでこんなに不機嫌なの?』
望美は首を傾げた。
「ねぇ。知盛。旅行って行っても2泊3日ですぐに帰ってくるし。お土産も買ってくるからさ。」
と、笑顔を向けても知盛の機嫌は良くなる気配は無い。
困ったな、と望美が思っていると、彼女の携帯が鳴った。
「もしもし?」
「先輩?これから買出しに行くんですけど、来ませんか?」
電話の相手は譲。
望美は少しホッとする。
「あ。そうだね。行く、行く。」
「じゃぁ。駅前で兄さんと待ってますから、」
「うん。分かった。じゃぁね。」
電話を終えて、望美は知盛に向き直る。
「ごめん。知盛。買出しがあるからもう行くね?後でまた来るから。」
そう言い残して、望美は知盛の部屋を後にした。
「んで?知盛は納得したのかよ?」
そう尋ねる将臣に望美は首を振った。
「多分、ダメ。スゴイ不機嫌そうだったもん。」
「でも、言わないで行っても余計不機嫌になるんじゃないですか?」
「そうなんだよねぇ〜。」
ハァと、望美は溜息を吐く。
急いでいたからあのまま出て来たけれど、きっとまだ、不機嫌なままなのだろう。
戻るとは言って来たが、少し戻りたくない気持ちになる。
「連れてってやりゃぁ、イイじゃねぇか。」
将臣の意見に望美は激しく首を振った。
「ダメ!!」
「何でだよ。」
「だって、ちゃんと紹介もしてないのに・・・・・・・。」
「じゃぁ。この機会に紹介しちまえばいいだろうが。」
すると、望美はジト目で将臣を見た。
「じゃぁ、将臣くんが私だったら、知盛を親に紹介する度胸はあるの?」
「・・・・・・・ねぇな。」
気まぐれで、何処と無く冷めていて、いつも気だるそうにしていて。
そのくせ、変な所でやる気を出したり。
いつでも、何処でもセクハラまがいの事を平気でやってくるし。
そんな彼を、突然家に連れて行って、
「彼氏です。」
と、紹介したなら。
親は泣くかもしれない。
望美はそう思ったのだ。
「でも、連れてきたのはお前じゃねぇか。」
将臣がもっともな意見を言う。
「遅かれ早かれ、紹介しなきゃなんねぇんだったら、ついでにした方がいいんじゃねぇの?」
「そうかな・・・・・・。」
「そうですね。それに、あの人だって、ちゃんと親の前だってわきまえてくれますよ。」
「うん・・・・・・。そうだよね。一応、宮中に居たりしたんでしょ?」
「おぉ。官位もらってたしな。」
「だよね?よ〜し!じゃぁ、早速、連絡してみるよ。」
幼馴染二人からのアドバイスと励ましで勢いづいた望美は知盛に連絡しようと、ポケットの携帯を取ろうとした。
が。
「あれ??」
ポケットの中には携帯が無い。
反対のポケットにも入ってない。
バッグを探ってみても・・・・・・・・。
「どうしました?」
譲に問われ、望美はバッグの中を穴が開くほど見ながら答える。
「携帯が、無いんだけど・・・・・。」
「どっかに落としたのか?」
「え〜?そうなのかなぁ。」
「俺、掛けてみますね。」
そう言って譲は自分の携帯を取り出し、望美の番号に電話をした。
しばらくして、誰かが出たようだ。
「もしもし・・・・・・。あ。はい。そうです。・・・・・・えぇ。・・・・・・分かりました。それじゃぁ。」
一通り会話をして、譲は電話を切った。
「先輩のお母さんが出ましたよ?」
「え?お母さん?」
「はい。何でも先輩に用があってかけたら違う人が出て、わざわざ届けてくれたらしいです。」
望美はホッと安堵の溜息を吐いた。
「よかった〜。親切な人が拾ってくれて。」
「ラッキーだったな。」
「今まだ、家のほうにその人が居るらしいですよ。」
「ホント?じゃぁ、お礼言わなきゃ!早く帰ろう?」
そして、3人は急いで春日家へ帰っていった。
玄関には男物の靴が一つ増えていた。
きっと、携帯を届けてくれた人の物だろう。
望美達は靴を脱ぎ、リビングへ入っていった。
「ただいま〜。」
「あら。おかえりなさい。」
出迎えた望美の母の他に、父と、お隣の有川家の両親もリビングに居た。
その真ん中に届けてくれた人物の影が見える。
望美は心から感謝するように頭を垂れて、お礼を言った。
「すみません。わざわざ届けていただいて。本当にありがとうございました。」
そして、頭を上げると
「なに。礼には及ばないさ・・・・。」
面白そうに口元を綻ばせる男が居た。
「「「知盛!!!!」」」
望美、将臣、譲は同時に声を上げ、ポカンと口を開けてしまった。
「な、なんでウチに居るのよ!?」
望美が素っ頓狂に叫ぶと、母が望美を諌めるように言った。
「こら。折角届けて下さった、知盛さんになんて事を言うの!」
「宜しいんですよ。母上。」
・・・・・・・トモモリサン?・・・・・・・・・ハハウエ??
「ごめんなさいね。礼儀のなってない子で・・・・・。」
「いえ。そんな事はございませんよ。母上の様に優しい女性に育っているではありませんか。」
「まぁ・・・・。知盛さんたら。」
母は年甲斐も無く頬を染めていた。
望美は開いた口が塞がらない。
「望美。そんな所に突っ立っていたら知盛くんが落ち着かないだろう?」
立ちっぱなしの望美に父がそう言うと、今度は父に向かって、知盛は微笑みかける。
「お心遣い感謝します。父上。」
「いやぁ。君は本当に立派な好青年だね。」
「父上にお褒めを賜るなど、感激の極み・・・・。」
父もすっかり知盛がお気に入りのようである。
「それにしても、望美。何で、もっと早く知盛さんとお付き合いしてるって教えてくれなかったの?」
「そうだ。早く紹介してくれれば良かったのに・・・・・。」
そう、両親が望美を攻めると、知盛は申し訳なさそうに頭を下げる。
「申し訳ございません、父上。母上。全ては私の不徳の致す所。良日にご挨拶をと、思っておりましたが。
お叱りを受けるのは最もでございます。」
そんな知盛に望美の父と母は。
「まぁ。頭を上げてください。」
「そうだよ。君のような良い人に巡り合えて望美は幸せ者だ。」
知盛の好感度、急上昇。
「「今後とも、娘を宜しく。」」
逆に、父と母が頭を下げた。
それを見ていた有川家の母はうらやましそうに溜息を吐く。
「いいわねぇ。望美ちゃん。こんなステキな恋人が居るなんて。」
「全くだ。こんなに良い方はそうそう居ないねぇ。」
有川両親も知盛を大絶賛。
そして、二人の息子に母は。
「あんた達。知盛くんとお友達なんですって?どうして連れて来なかったのよ〜。」
母は、毎日でも来て欲しそうだ。
そんな母に息子二人は引きつり笑いを零す。
一体、何がどうなって・・・・・・。
そう、将臣と譲が思ったとき。
突如として望美が知盛の腕を掴み、一目散にリビングを後にした。
リビングから少し離れた廊下で望美は知盛を見上げる。
「な、何で?どういうこと??」
「・・・・携帯を、忘れたお前が悪い。」
ニヤリと、知盛は嬉しそうに笑う。
「一体、どんな手を使ってお父さん達に取り入ったのよ!」
「くっ。・・・・・・・さぁ、な。」
知盛は種明かしなどする気は無いらしい。
そして。
「望美〜?こっちにいらっしゃ〜い。」
リビングから母の呼び声が聞こえる。
望美は渋々、リビングへ戻った。
知盛も後からついて行く。
リビングを開けると、ニコニ顔の大人4人。
「あのね、今、皆で話してたんだけど。今度の旅行に知盛さんも一緒に行けないかしら?」
「は!?」
「そうそう。もう家族の一員のようなものなんだから。」
「え?え?でもさ。知盛も仕事とか・・・・・用事とか・・・・・。」
あるでしょ?と目で訴えたが、知盛は望美にだけ分かるようにニヤリと笑うと。
「喜んで、お受けいたします。」
あっさり受諾した。
大人たちは大喜び。
望美は軽い眩暈が起きそうになった。
その時、ポンッと、将臣が望美の肩を叩く。
「よかったじゃねぇか。晴れて親公認の仲になって。」
確かに、恋人を認めてもらえたのは嬉しいのだが。
望美は言い表しようの無い複雑な心境に溜息が零れ落ちる。
「じゃぁ。そうと決まれば早速、知盛くんの歓迎パーティでもしましょう!」
「おぉ。いいね!!」
「知盛くんは、何がお好きかしら?」
「今夜は、泊まって行きなさい。」
何で、こんなに、はしゃいでるの?
望美、将臣、譲はもう、笑うしかない。
「人徳・・・・・って奴さ。」
唖然とした3人に知盛は小声でそう囁いたのだった。

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