君が好き
茶吉尼天との戦いが終わり、数ヶ月が過ぎた。
望美の願いでこちらの世界に残った敦盛は、
白龍の力で学歴などを手に入れ、大学生として生活している。
初めのうちは、帰る事を希望していた彼が残ってくれたのは凄く嬉しい。
けれど、望美を悩ませる出来事が多発しているのも事実で・・・。
「はぁ〜。」
敦盛の通う大学の校門前で望美は大きな溜息を吐いた。
一緒に帰りたくて、学校帰りにこうして待ち伏せているのだが。
まだ、彼は一向に出て来ない。
代わりに出て行く女の子達の口から聞こえてくる話題。
それは。
『敦盛くんて、可愛いよね〜。』
『彼女とかいるのかなぁ〜?』
『笛吹いてるときとか、凄くかっこいいし。』
『素敵だよね。』
自分の恋人の話題。
しかも、その子達は皆、
彼に少なからず恋をしているような会話だ。
極めつけは。
『今度コクっちゃおうかな〜』
という台詞。
そういう女の子達をチラリと見やる。
皆、自分よりもキレイでスタイルも良くて大人の女性だ。
『負けてるよね・・・・私。』
更に深い溜息を吐いた。
「神子?」
不意に呼ばれ、振り向いた先には敦盛の姿が合った。
望美の顔に笑顔が戻る。
が。
すぐに望美の顔が凍りつく。
「あれぇ?敦盛くんの友達〜?」
敦盛の後ろからヒョッコリと顔を出した少女。
小さくて、可愛らしい顔立ちをしている。
「え〜。敦盛くんこの子と待ち合わせしてたの?」
彼女は少々不機嫌な顔で敦盛に問いかけた。
「あ。いや。してはいないが。」
「ふぅん。じゃあ行こうよ。お店閉まっちゃう。」
望美を気にせずに彼女は敦盛の手を握る。
恋人のような仕草で。
敦盛は、その手を払おうともしなかった。
途端、望美は直感する。
きっと、この子も敦盛さんの事が好きなんだ。
ぎゅっと、胸が締め付けられる。
目頭に熱いものを感じた。
必死にそれを堪えながら、望美は踵を返す。
「さようなら!!」
そう言い残して走り去って言った。
「神子!!」
と、叫んだ敦盛の言葉は望美には聞こえる事無く、宙に浮いてしまった。
しばらく走っていくと公園があった。
どの位走ったのか分からないが、かなり遠くまで来た気がする。
彼の通う大学は全然見えなくなっていた。
これでもう、敦盛の話題を聞かなくて済むと思うと安堵する。
ベンチに腰かけ、一息つくと。
先ほどまで堪えていた涙が溢れ出した。
箍が外れたように涙がこぼれる。
嗚咽もこぼれ、自分ではもう止められそうにない。
敦盛さんが素敵な人だって知っている。
誰よりも。
優しくて、か弱そうに見えるけど芯はしっかりしてて、
不器用で、暖かい。
私の好きな人。
けれど、そう思うのは自分だけではないのだ。
と、実感した。
それが悲しくて、悔しくて。
そう思う自分が惨めで、恥ずかしい。
止め処ない涙を必死で拭っていると後ろからフワリと抱きすくめられる。
鼻に掛かる香りは愛しい人の香り。
自分でも止める術を持たなかった涙が急に止まる。
振り返ると、そこには自分よりも悲しい顔の敦盛がいた。
「神子。良かった・・・。」
「あつ・・・・もりさん?」
「貴女が『さようなら』と言ったから・・・・。」
嫌われてしまったのかと思った。
抱きしめる腕に少し力がこもる。
放さないと、言っているような気がして望美は頬を染めた。
「さっきの子と一緒に行ったんじゃ・・・・」
「それは断ってきた。」
「・・・・・どうして?」
「それは。」
あなたの事が大切だから。
敦盛は、そっと望美の目尻に残る涙を拭ってくれた。
その仕草にも愛情を感じる。
跳ねる鼓動。
涙が渇いていく。
けれど、少し意固地になってる望美は顔を正面に戻し拗ねた様に呟いた。
「私よりも可愛い子はいっぱいいますよ。」
嫉妬しない、意地っ張りじゃない可愛い子が。
「そうだろうか?」
「そうですよ。世の中広いんですから。」
「いや・・・・。しかし、無理だな。」
「え?」
もう一度、振り返った望美の唇にキスをする。
そして穏やかに微笑む。
私はこんなにもあなたが好きだから。
「嫉妬してくれる姿も、意地っ張りな姿も全て愛しいと思っている。」
そう告白してくる姿にはいつもの儚げな雰囲気はなくて。
望美は絵に書いたように、みるみる赤くなる。
「神子?」
「え!?あ。その・・・・・」
敦盛の素直な台詞に答えなきゃいけない。
そう思い、恥ずかしがる己を必死に震え立たせる。
私も好きです。
小さく消えそうな声で呟いた。
クスリと敦盛は微笑む。
そんな恥ずかしがり屋なあなたも愛しいな。
敦盛は柔らかな笑顔を湛え再び望美に口付ける。
貴女は知っているだろうか?
私がどんなに貴女を好きなのかを。
『さよなら』と言った貴女の言葉がどんなに苦しかったか。
この思いが目に見えないのが口惜しい。
だから言葉で表そう。
貴女が好きだ。
世界中の誰よりも。
「あの・・・・ちょっと買い物に付き合って欲しいんですけど・・・。」
少し遠慮がちに言う望美の手をつなぐ。
「あぁ。ずっと、待っていてくれた神子のために、どこでも付き合おう。」
「えぇ!?何で知ってるんですか?」
驚く望美に敦盛は微笑む。
「神子のことなら何でも知っている。」
愛しい貴女をいつも見ているから。
〜あとがき〜
ご馳走様です。公園でチューして誰かに見られて良いんですか?
私なら、砂吐いて固まりそうです(笑)
いつになく積極的なあっつん。
だって彼は一応、平家の血を引いてますからね。
あの平家の・・・・・(遠い目)

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