君と花










性に合わないことはするもんじゃない。

何でかって?

そんなの決まってるだろ。

性に合わない、即ち経験のない事。

対処の仕方も、何もかも判らなくってどうしようもなくなるのが目に見えているからだ。

それでも人間ってのは判らない物だ。




京の町をぶらりと散策していた平助はふと、足を止めた。

道の端っこには桶に小さな花束を売る花売り。

花は決して華美なものではなく、実に素朴な物。

控えめで小ぢんまりとした可愛らしい花は人目を集める程ではない。

けれど、どこか暖かく優しい気持ちにさせてくれるような様相で咲いていた。

その花が、平助には一瞬だけ千鶴の姿に重なって見える。

だからであろうか。

気付けば花売りの前に膝を曲げて代金を払っていた。





「・・・・・・やべぇ。どうしたらいいんだよ、コレ。」



屯所へと帰る道すがら、平助はブツブツと呟き考えていた。

手には先程買った小さな花束。

きっと、千鶴に良く似合うだろう。

しかし。



「・・・・俺、女に花なんて贈ったことねぇよ。」



平助は溜息を吐いた。

かと言って、まさか自分の部屋に飾るわけには行かない。

千鶴以外の誰かに上げると言っても屯所はむさ苦しい男所帯。



「野郎に花贈るなんて気持ち悪くて出来るかよ。」



想像するだけで身震いが起きそうだ。

となれば、やはり当初の目的通り、千鶴へ贈るという選択肢だけが残る。

けれど何と言って渡せば良いのだろうか。



その辺で拾ったから。とか?



「いや。ゴミとかじゃねぇんだし・・・・。」



誰かに貰ったから。とか。



「それじゃあ、要らないもんを押し付けてるみたいだよな・・・・。」



平助はう〜んと、唸った。

そして、考えがまとまらないまま気付けば屯所の門前に立っていた。

このまま屯所に入って誰かに見られたら、確実に何か言われる。

それが新八っさんや佐之さんなら最悪だ。



「くそっ。」



良案が浮かぶまで時間を潰そうかと思案し始めたその時、偶然にも箒を持った千鶴が門から出てきた。

そうやら、門前の掃除をしようとしているらしい。

平助は慌てて、持っていた花を後ろへ隠した。

千鶴は平助を見つけると笑顔を向け帰宅を迎えてくれる。



「お帰りなさい。平助君。」

「お、おぅ。ただいま。」



出迎えに向けてくれた笑顔は、いつもと同じで暖かく優しい気持ちにさせてくれる。

ああ。

やっぱりあの花は千鶴に良く似合うんだろう。

素朴で、飾り気のない愛らしい姿が同じだ。

そして、この花を他の誰でもない、千鶴だけに贈りたいと思った。

そう考えると、さっきまでの自問自答が馬鹿らしく思えて、

平助は小さく息を吐きながら笑むと背中に隠していた花束を千鶴に差し出した。



「これ・・・・貰ってくれるか?」

「え?私に?」



差し出された花束を両手でそっと受け取る。

彼がくれた花は非常に可愛らしく、千鶴は無意識に顔が綻びた。



「わぁ。可愛い。」



素直にそう言って笑う千鶴と贈った花は驚く程良く合っていて

平助の心臓がトクンと一つ跳ねた。



「ありがとう、平助君。でも、どうして私に?」

「そ、それはっ・・・・・・・。」



小首を傾げて問う千鶴の顔を見ると、平助の顔は見る見るうちに紅色へ染まって行った。

本心を告げるか否か、頭の中でグルグルと回る。

そしてこれ以上無いほど顔が赤くなると平助は勢い良く顔を背けて。



「お、お前に似合うと思ったからだよっ!!」



そう言って、屯所の中へ駆け込んで行った。

残された千鶴は目を瞬いて平助の言葉を受け取る。

すると、彼女の顔も平助に負けないくらい真っ赤に染まった。

そして、手の内の花へ、もう一度視線を落として見る。

淡い色の、小ぢんまりとした可愛らしい花。

私に似合うと思ったって言ってくれたって事は、平助君には、私ってこんな風に見えてるのかな?

そう思うと、なんだか胸の奥がくすぐったくなって。

千鶴は紅い頬のまま、照れ笑いを浮かべた。




〜あとがき〜
叶うなら、あの頃のピュアさを 取り戻したい    字余り;




   
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