恋人










いつの頃からか、頻繁に聞かれるようになった質問。



『春日さんって、有川君と付き合ってるの?』



不特定多数の女子から繰り返し、繰り返し聞かれてきた。

もちろん、返事は決まっていた。



『ただの幼馴染だよ?』



それを聞くと皆、ホッと嬉しそうな顔をして去っていく。

お決まりの台詞を、何度も何度も聞かれて。

その度に私も、同じ台詞を繰り返して・・・・・・・。

けれど、今は。




昼休み。

いつものように昼食を終えて、友人との会話に花を咲かせる。

と、そこへ。

他のクラスの女子が、望美と同じクラスの女子と一緒にやってきた。



「春日さん。ちょっと、いいかな?」

「うん?何??」



会話を中断されても気にする事無く、望美は彼女達の方へ向く。

すると、他のクラスの子が少し遠慮がちに口を開いた。



「あのね。有川くんの事なんだけど。」

「将臣くん?」

「うん。春日さんと付き合ってるってホント?」



いつもなら、返事は『NO』。

けれど、時空を超えて、敵同士になって。

それでも、惹かれて。

戻ってきた時には、お互いを愛する気持ちを知って。

今、返すべき返事はもう『NO』ではない。

だけど。



「え〜っと・・・・・・。」



望美は返事に窮する。

今まで、散々。

他の人たちに『違う』と言ってきた手前、なかなか今の自分達の関係を言い出しにくかった。

何故なら、望美に聞いてきた女子の殆どは、将臣に気があって聞いてきたのだろう。

そんな彼女達に申し訳ない気がして、望美は誰にも付き合い出したことを告げていない。

まして、将臣が自分から進んで恋人宣言をする性格ではなく。

結果的に、誰も今の二人の関係を知る者は居なかった。

その為、こうしていつものように望美のもとへ、将臣の女性関係を聞きに来る子が居るのは至当である。



「え?もしかして、ホントに付き合ってるの!?」



いつまでも返事を出さない望美に同じクラスの子が聞く。



「いや・・・・・・。えっと。」



望美は口ごもる。

すると、他のクラスから来た子が口を開いた。



「な〜んだ。やっぱりね〜。」



特に落胆するわけでもなく、むしろ面白がっているかのように笑う彼女を望美は少し驚いて見た。

その視線に気付いて、彼女は笑ったまま望美に言う。



「やだ。誤解しないでね?別に有川くんに告ろうとか、そんなんで聞きに来たんじゃないの。」

「そ、そうなの?」

「うん。ただ、最近さぁ。ウチのクラスの男子が落ち込んでて『なんで?』って聞いたら、
 『春日さんに彼氏が出来た。』って言ってたから確認しにきた訳。」

「そ、それで何で将臣くん?」

「え?だって有川くんが『望美は俺のだから手出すなよ。』って言ったらしいから。」



他のクラスの子から伝えられた将臣の発言に、望美の顔が一気に朱に染まった。

それを、その場に居た女子全員が「おや?」とした顔で見る。

すると。

その中の一人がからかい口調で言う。



「やだ〜。超愛されてんじゃん♪」

「ホント。羨ましい〜。」



望美の顔は益々、赤くなる。

と、そこへ。



「お〜い。望美〜。」



のんきな声で将臣が望美を呼んだ。

渦中の人物の登場でその場が一気に盛り上がる。



「ほら!春日さん。ダーリンが呼んでるよ。」

「早く行ってあげなよ♪」



皆、一様に望美を将臣の下へ追い立てる。

その、状況と望美の顔の赤さに将臣は首を捻った。



「なんだ?どうかしたか?」



要因は将臣自身なのだ。

望美は将臣をチラリと見上げる。



「ま、将臣くんが恥ずかしいこと言うから!!」

「は?俺なんか言ったか?」

「隣のクラスの男の子に・・・・・・その・・・・・・。『望美は俺の』とか言ったデショ!?」

「あぁ。あれか。」



合点がいって将臣は頷く。



「で?何が恥ずかしいんだよ?」

「何がって!そ、そんな台詞・・・・・。」

「だって、ホントの事だろ?」



いけしゃぁしゃぁと、将臣は言う。

そして、赤い顔の望美を、何の前触れも無く自身の胸に抱き寄せた。



「お前は、俺の大事な女だろ?」



有無を言わさないような強い口調で。

問いかけられたと、いうよりも宣告されたかのような気持ちにさせられる。

望美の心臓がドクドクと音を立てた。



「だ〜か〜ら。」



望美を抱いたまま、将臣は先程望美を囲んでいた女子達をチラリと見やる。

そして。



「コイツに手出すなよ?」



誰というわけでもなく、将臣はそう告げた。



それだけを言い残して、望美をそのまま連れ去る。

後に残ったのは、ポカンと口を開けた生徒達。

と。

一人が口を開く。



「あれって、恋人宣言?」






「ちょっ・・・・!将臣くんっ!!」



望美は自分を胸に抱いたまま廊下を闊歩する将臣に抗議の声を上げた。

大胆に歩くその姿にすれ違う生徒達は皆、唖然と振り返る。



「ん?なんだよ?」

「『なんだよ?』じゃない!!は、恥ずかしいデショ!?」

「別に。」

「もう!またからかわれちゃう・・・・・。」



望美の頬が膨らんで拗ねた顔になった。



「何だよ。嘘は言ってないだろ?」



その通り。

嘘は一つも無い。

むしろ、『大事な女』という将臣の言葉が嬉しくて望美の頭の中で反芻していた。

だが、望美は少し不服そうに言う。



「だ、だって・・・・。からかわれると恥ずかしいんだもん。」



二人きりで居るときの、お互いの関係の変化にはそろそろ馴れてきた。

でも、人前で。

将臣と一体、どう接したらいいのか。

望美には難しかった。

普通に接しようとすればする程、何だか違和感を覚える。


私は、将臣くんと

どんな顔で、笑って。

どんな声で、話して。

どんな仕草で、隣に居たのか。


意識し出すと何もかもが、おかしく見える。

望美はしぼんだように俯いた。

すると。

おもむろに、将臣が望みの額に触れた。

そして。


ビシッ!!


デコピンが一つ、望美を襲う。



「痛っ!!何すんの!?」



涙目で額を押さえ、少し怒った顔の望美を、将臣は笑って指差した。



「ほら。それでイイんだよ。」

「・・・・・・え?」



意味がわからず望美は聞き返す。

将臣は笑ったまま、望美の顔を見て言った。



「だから。いちいち悩んでんじゃねぇって。」



望美の不安など消え去ってしまうような笑顔を向ける。



「そのままでイイんだよ。」



惚気て頬を染めるの姿も、

甘い言葉に慌てるの姿も。


全て、愛しく見えるから。



「・・・・・・おかしくない?」

「全然。つーか、むしろ・・・・・・。」



――――― もっと可愛いお前を見せて欲しいし。



そう言うと、望美は照れたように、そっと将臣を見上げる。



「・・・・・バカ。」



ポツリと呟くその様に、将臣も「参ったな・・・・。」と小さく呟いた。



「?何が参ったの?」

「あ?何だよ、無自覚か?」

「??」

「しょうがねぇな・・・・。責任取れよ。」



いつの間にか、人気の無くなった廊下で。

将臣はほんの少し前かがみになって望美の顔に近付く。

深い、深い、口付けを。

飽きる事無く続ける。



「んっ!将臣くん?」



理由を求める瞳に、将臣は熱い眼差しで答えた。



「お前が悪い。」



こんなにも愛しく思えてしまうお前が。



それだけを言い残して、将臣は口付けを再開させた。

望美は抵抗も、抗議もしない。

求められるまま。

求めるまま。

自分の気持ちの通りに、口付け合った。




〜あとがき〜
学校で何してんですか;

この後、エロい展開になりそう(笑)



   
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