恋歌 (リズヴァーン編)










 君がため 惜しからざりし 命さえ  長くもがなと 思いけるかな




惜しいものは何一つ無い。

お前を守る為ならば。

その気持ちに嘘、偽りは無い。








庭先で涼んで居たリズヴァーンの背後からソロリ、ソロリと近付く気配があった。

身構えるまでも無い。

この気配は恐らく良く知った人物。



そして突然、リズヴァーンの視界が暗くなる。

後ろから両手で目隠しをされたのだ。

リズヴァーンから思わず笑みが零れた。



「神子、か。」



すると、目隠しをした犯人―――即ち、望美が驚いたように手を離す。



「先生!?何で分かったんですか??」



八葉たちの中では最年長であり、周囲からは鬼と恐れられる自分に

こんな無邪気なイタズラをしてくる相手は一人しかいない。


臆する事無く、笑顔を向けてくれる唯一の女性。



「神子の気配はすぐに分かる。」

「う〜ん・・・・・。ビックリさせて見たかったのに。」



残念と、呟いた。

リズヴァーンはそんな望美を目を細めて見つめる。




数多の時空を越える中で

たくさんの望美に出会った。


皆、強くて、優しい。


初めて出会った時と変わらない望美。





憧れは恋情へ





いつしか、想いは変化した。



彼女の『死』の運命を知った時、


何に代えても守ると決めた。




その為なら、自分の人生。未来さえも惜しくは無いと。




けれど・・・・・。






「先生。」


今度はトントンと、肩を叩かれた。

リズヴァーンがそちらに顔を向けると、不意に頬に何かが当たる。

当たったのは望美の人差し指。

望美はニッと、嬉しそうに笑った。



「先生。引っ掛かりましたね。」



まるで子供のようなイタズラ。

望美は成功して喜んでいる。





惜しいものは何一つ無い。

お前を守る為ならば。

その為なら、自分の人生。未来さえも惜しくは無い。

その気持ちに嘘、偽りは無い。




けれど、それと同時に生まれ出でた思いは正反対のものだった。




共に、生きたい。




彼女が生きる運命の中で。




無邪気で愛しい笑顔を、いつまでも見ていたい。




誰よりも近くで。




だが、それは。己の命を惜しむ事。




――――――愚かな願いだ。




リズヴァーンは目を伏せる。

そんな彼の顔を望美は覗き込んだ。


「先生?」


イタズラに怒ってしまったのだろうか?

不安げな面持ちの望美を見つけ、リズヴァーンは微笑を贈る。


「問題ない。」

「本当ですか?」

「あぁ。」

「良かった〜。」


ホッと、望美は安堵の笑みになった。

その笑顔がリズヴァーンの心に染みる。

と、同時に「そうか。」と呟いた。


「??何が『そうか。』なんですか?」


望美は首を傾げながら問う。

だが、リズヴァーンは望美の頭をポンっと優しく叩くだけ。


「独り言だ。気にしなくて良い。」


と、微笑んだ。





例えこの先、共に生きれなくとも


今、共に生きていられる。


ならば、その笑顔を絶やさぬように


憂いで心を押しつぶされないように


守ろう。


誰よりも近くで。


お前という


愛しい存在を。





〜あとがき〜
先生の場合だと、漢詩が合うんだろうケド・・・・・・・。

片桐なりに『恋歌』シリーズにはちょっとしたこだわりがありまして。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれないですが、全部『百人一首』の歌なんですね〜。
何でかって言うと、ただ好きなだけなんです(笑)
もったいぶって説明してんじゃねぇよ! バキッ!! ぐはぁ!!

えと・・・毎回恒例の歌の解説を。

「あなたにお逢い出来るのならば、命も惜しくないと思っていたのに。こうして願いが叶えられてしまうと命が惜しく感じられ、
 このまま生きていきたいと思ってしまうのです。」

作者は藤原義孝。美男だったそうです。(ステキ。)

病の為に21歳で亡くなってしまったという可哀想な方。病床に臥してなかなか会えない恋人に会えた喜びを歌ったそうですね。

くぅぅ〜。泣けてくるぜ。


  
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