恋歌 (知盛編)










知盛は縁側で酒を飲んでいた。

秋はやはり月見酒というのも悪くは無い。

杯を傾け、一気に飲み干す。

今宵は望月。

雲の間から零れてくる月の光はなんとも眩い。


「秋風に たなびく雲の 絶え間より  もれいづる月の 影のさやけさ・・・・・か。」


まるで、あの女のようだ。



知盛は、クッと笑い酒を注いだ。


福原で剣を交えた女の姿を思い浮かべる。



源氏の戦女神と呼ばれる女。



女伊達らに剣を振り、怯む事無く敵に向かう姿は


女神なんて生易しい物じゃない。


あれは、獣だ。


迷う事無く敵に噛み付く獣そのもの。


美しい、獣。


あの力強い瞳に見つめられる心地よさは未だかつて得た事の無いような快感。


知盛の脳裏に色濃く焼きついていた。


「次の・・・・逢瀬はいつだろうな。」


逢瀬という名の命のやり取り。


出会えるのは戦場。


こんなにも戦が楽しみで仕方ない。


それは、まるで・・・・・




知盛はククク、と笑う。


まるで、





恋焦がれているかのようだ。





出会った日から、いつもあの女のことばかり考えている。


昼も夜も。


いつ、会えるだろうかと。


「なるほど。これが・・・・・・。」





  みかきもり 衛士のたく火の 夜は燃え  昼は消えつつ 物をこそ思へ





知盛はまた、酒を飲み干した。


同時に、月を見上げる。



お前も焦がれているか?


この俺に。



「楽しみ・・・・・だな。」



知盛は嬉しそうな笑みを浮かべた。




〜あとがき〜
チモが変態チックです。(笑)

さて、歌の解説。
「秋風に〜」の訳から。

『秋風に吹かれてたなびいている夜空の雲間から、月の光が零れている。なんと清らかで美しいのだろう。』

作者は左京大夫顕輔。

崇徳院の命令で差し出した歌なんだとか。

続いて「みかきもり〜」です。

『宮中の門を守る衛士の焚くかがり火のように、夜は恋に胸を焦がし、昼は物思いに沈んで消え入りそうだ。』

作者は大中臣能宣朝臣。

三十六歌仙の一人です。

彼が若かった頃、一人の女性と燃えるような恋をした時の歌のようです。

燃え盛る炎を見て、「自分たちのようだ。」とおもったそうですね。


   
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