アナタ好み
ここ最近、千尋は眉を寄せて考え事をしていた。
それは、彼女にとっては大問題で解決方法は唯一つ。
本人に直接問いただす事だった。
「忍人さんって、胸が大きい人の方が好きなんですか?」
突然の素っ頓狂な質問に忍人は完全に呆気に取られてしまった。
「・・・・・君は一体、何を言っているんだ?」
「え?だから、忍人さんの好みを聞いてるんですケド。」
「だからって、何故。・・・・・胸の大きさなんだ?」
少し、頬を赤くしながら聞き返す忍人に千尋も顔を赤くして、少し口を尖らせて言った。
「だって・・・・・・。忍人さん。前、私の裸見ても何にも反応しなかったじゃないですか。」
あれは、かなりショックだった。
見られて良いわけではない。
あからさまに顔を赤くされてしまうのも困るが、無反応というのも納得しかねる。
それではまるで、子供の裸を見ても何も感じないのと同じ扱いのようだ。
「それは・・・・・・。あの時は何も気になど止まらなかったが。」
やっぱりそうだった。
千尋はガクッ肩を落とす。
前々から思ってはいたが、彼は『女性』というものに対して興味がなさそうだ。
今はまだ、戦の事後なのだから当たり前だ。と、一蹴されてしまうかもしれないが。
共に過ごす内に千尋の胸には小さな恋心が育っていた。
冷たい態度の裏に隠れた温かい彼を知って、いつの間にか目で追う自分がいる。
彼は一体、どんな女性が好きなのだろうと、気になっている自分がいる。
それは、思いが通じ合った後も変わらなくて。
いや、前以上に意識するようになっていた。
そんな風に彼を思っていると、ふと、彼との始めての出会いが頭を過ぎる。
『軽率だ。俺が敵なら君は死んでいた。』
厳しい口調で、水浴びの途中で裸を見られて。
彼は、たじろきもせずに去って行った。
それを思い出すと、千尋はチラッと自分の胸を見下ろした。
まだ、成長過程の体。
スタイルが悪いわけではないけど、抜群とまではいかない。
「やっぱり・・・・・胸かなぁ。」
小さな溜息をした。
「全く、くだらない。」
忍人は呆れながら言った。
千尋はムッとする。
「何がくだらないんですか?」
「そんな事を考えてる事、事態がくだらない。」
千尋は更にムッとして、少し涙声で言った。
「確かにくだらないかも知れませんけど!私だって色々悩んだんですからっ!
もっと、忍人さんに好きになってもらえるようになるにはどうしたら良いんだろうって。
考えたんですから!!」
「もういいですっ。」と言いながら千尋は背を向けて歩き出した。
くだらないと言えばくだらないかもしれない。
そう、指摘されて、怒るのもまたくだらないかも知れない。
そんなことを尋ねて、一体何の得があるのか。
胸が大きい方が良いと言われたって、一朝一夕でどうにかなる訳でもないし。
気が滅入ってしまうだけかもしれない。
けれど、それでも知りたい。
知って、少しでも彼好みの女性に、近付いて。
もっと、もっと愛されたいと。
そう思うのは、くだらない事?
千尋は哀しかった。
すると。
忍人が、去ろうとする千尋の腕を捕らえる。
何処にも行かないようにしっかりと。
「本当に君は、滅茶苦茶だな。」
ふぅ。と小さく嘆息する。
「そんなくだらない事で悩んだり、怒ったり・・・・・。」
「・・・・・っ!!だったら放して下さいっ!」
忍人の手を払いのけようとする千尋の手を、忍人はもう一方の手で制止させた。
「人の話は最後まで聞け。」
やや強い口調に、千尋の動きが止まる。
そして、そんな千尋を忍人は自分の腕に閉じ込めた。
その展開に驚いて見上げる千尋を、忍人は普段しないような喜悦に孕んだ顔で見返した。
「俺は、そんな君を可愛いと思っている。」
小さな事で頭を悩ませて、
小さな事で喜んで、
小さな事で泣いて、
本当に、仕方の無いヒト。
けれど。そんな君が誰よりも、何よりも愛しい。
「だから、くだらないと言ったんだ。」
――――― 愛しているのは君だけなのだから。
臆面もなくそう言う忍人の言葉は、千尋の顔を朱色に染め上げた。
千尋の変化に忍人は驚いた顔をした。
「どうしたんだ?」
「ど、どうしたって・・・・・。その・・・・。忍人さんが、そんなこと言うから・・・・。」
「?俺は何か、可笑しな事を言ったか?」
訳が判らないと、いったように忍人は困り顔になる。
それが何だか可笑しくて。
千尋の顔には花のような笑顔が咲いた。
〜あとがき〜
♪迷うな〜 セクシ〜なのキュ〜トなの どっちが好きなの〜 byあやや
結局は、好きになった人が好みって事です。
ちなみに最近気付いたんですが、片桐は歯並びの悪い人が好きみたいです。趣味悪っ;
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