Love you
「こちらのお色は如何でしょう?」
望美はピンク色のドレスを受け取った。
結婚式の準備は着々と進み、本日は衣装合わせである。
ウェディングドレスは女の子の憧れ。
披露宴で着るカラードレスも色鮮やかで迷ってしまう。
一番自分に似合う物で着飾りたいと思うのは当たり前。
大好きな人に飛び切り綺麗な姿を見て欲しいのも当たり前。
「銀は何色が良いと思う?」
望美の問いかけに銀はニッコリと微笑みながら答える。
「神子様は何をお召しになられてもお似合いでございます。」
「どれでも良いってこと?」
適当にあしらわれた気分になる。
銀に限って、そんな事あろうはずが無いのだが。
少し膨れっ面になる望美。
その頬に触れキスしそうなくらい顔を近づける銀。
「いいえ。寧ろ神子様の美しさで衣装も華やかさを失ってしまいます。」
「もぅ。冗談ばっかり。」
「私は本心を申し上げておりますよ。」
ポッと赤くなる望美。
柔らかな笑顔でそれを見つめる銀。
熱々カップルの戯れを目にして、衣装係の女性は一瞬凍りついた。
一目も憚らず男性の方は女性の腰に手を回し、
今にもキスしてしまいそうな雰囲気。
顔が引きつりそうになる。
だが。
『ま、まぁ。婚約中のカップルなんて皆こうよね。
相手があんなに美形な人なら当然か。』
そう自分に言い聞かせて、彼らに背を向けいそいそと仕事に戻ろうとした。
その時。
「ダメっ!!」
突然出た拒絶の言葉に衣装係は驚き、声の方へ振り向く。
「神子様?」
銀もキョトンとしていた。
そんな彼に望美はニッコリ微笑む。
「銀。今日は衣装選びに来たんだからね。こういう事するのはダメ。」
まるで子供に諭すように。
優しい口調で、ピシャリと言った。
「神子様・・・・・」
銀に尻尾が付いていたなら確実にしな垂れていそうなくらい、
目に見えて落胆しているのが分かった。
「それに、これから将臣くんと待ち合わせしてるんだから。
早くしないと待ち合わせに遅れちゃうよ。」
望美はちらりと時計に目をやる。
衣装室に着てからかれこれ1時間くらい経っていた。
なのに、まだ一着も着て見てはいない。
すると、銀は先程の姿を打ち消したように笑顔を見せた。
「では、そろそろ試着なさってみては如何でしょうか?」
「そうだね・・・・。あ!これも着てみたい!」
望美は銀の横を通り抜け、展示しているドレスを見に行く。
その姿を愛しげに見ていた銀。
が。
ふと、衣装係は銀を見やる。
先程と変わらぬ笑顔ではあったが、何故だろう?
言い知れない違和感を感じる。
何かを企んでいるような・・・・・・。
『気のせい・・・・よね。』
彼女は望美に向き直り、再びドレスの説明をし始めた。
「この色はどうかな?」
薄いピンクのドレスに身を包んだ望美がフィッティングルームから出てくる。
肩を出し、胸元には大きな花が付いていて、
裾は何枚もフリルが重なり合いとても華やかだ。
銀は望美に歩みより感嘆の溜息を零した。
「あぁ。神子様。なんてお美しいのでしょうか?
貴女の白い柔肌がより一層輝いているかのようです。」
「そ、そうかな?」
「はい。この程までにお美しい方を見たことがございません。
出来ることなら、このお姿を誰にもお見せしたくないほど・・・・」
「し、銀。大げさ。」
「いいえ。もしも神子様を奪われてしまったなら、私は何をするか分かりません。」
目を伏せ、痛々しい顔になる。
ホントに何かしそうだ、この人。
衣装係は何故か直感的にそう思った。
すると、望美は悲しそうに顔を歪める。
「銀、私が心変わりをすると思うの?」
「いえ。神子様をお疑いしているのではありません。
貴女を慕う幾多の男達に貴女を奪われたらと思うと・・・・」
銀の顔が悲壮を帯びた顔になった。
望美は彼の手を取り、真っ直ぐに目を見つめ真剣な顔で言う。
「私は銀じゃないとダメなの。銀以外なんて考えられない。」
すると、銀の顔が喜びを含んだ色に変わる。
「あぁ。神子様。では、貴女の心は私で満たされていると?」
「う、うん。そうだよ。いつでも銀の事、考えてるよ。」
恥ずかしそうに俯く望美の頬を優しく包み、上を向かせた。
見つめあい、
熱い視線を交わして、
互いの吐息がかかりあうくらいに近づく。
衣装係は凍りついたように絶句していたが、
ふと。我に返る。
目の前には、またもやキスしそうな熱々カップル。
ドサッ!!
思わず、手に持っていたドレスを落とした。
あんたら、ここ何処だかわかってますか〜!!??
と、心の中で叫びながら。
その音に望美はハッと、する。
「ダメダメダメ〜!!!」
「神子様?」
現実に戻った望美は銀の手から逃げ出した。
「し、銀!さっきダメって言ったじゃない!」
望美は真っ赤になった頬を隠すように必死に手で覆う。
「あぁ。そうでした。忘れていました。申し訳ありません。」
にっこり微笑む銀。
嘘だ。
衣装係は心の中で突っ込んだ。
銀はちっとも悪びれない顔つき。
爽やかな王子様のようにニコニコと笑んでいる。
その銀を見た衣装係の顔が更に引きつった。
「もぅ!恥ずかしいんだから!!」
「神子様がイジワルをなさるからです。」
子供のような言い訳。
「だって、一度したら放してくれないじゃない。」
望美も負けじと反論。
「はい。よくご存知で。」
反論を笑顔で肯定する。
「だ、だからダメって言ったの〜!!」
更に反論するが、あまり効果は無いようで。
銀は熱っぽい瞳を望美に向ける。
「そう仰られますと・・・・・」
意地でもしてしまいたくなります。
望美を自分のほうへそっと、抱き寄せた。
望美の顔がどんどん朱に染まるのが分かる。
たとえ試着だけでも着飾った姿。
真っ赤に染まった頬。
恥ずかしげな面持ち。
銀は困ったように微笑む。
「それに、貴女がそんなに美しいお姿なのがいけないのですよ。」
私を惑わして止まないのです。
「わ、私のせいなの!?」
「はい。僭越ながら。」
ふふふ。と、銀は愉快そうに笑う。
望美はもう、ぐぅの音も出ない。
衣装係は・・・・・・・
抜け殻のように唯々、
呆然と見ている事しか出来なかった。

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