真夜中のデート










夜の10時を過ぎれば、辺りは真っ暗になり人影もまばらになる。
しかも、季節は冬。

寒くて出歩く者などほとんどいない。
その中を近くのコンビニまで歩かされる羽目になったのは、望美の一言だった。



「肉まん食べたくない?」



将臣の部屋を窓越しにノックしてきた隣の幼馴染。
ラフな部屋着に暖かいコートを羽織り、彼女は行く気満々で誘ってくる。



「お前なぁ。こんな時間に食ったら太るぞ?」

「だって〜。お腹空いたんだもん。」



ぷぅと子供のように頬を膨らませる。



「夕飯メチャメチャ食ってたじゃねぇか・・・・・」



本日の夕食は譲の手料理をご馳走になっていた。
彼の作ってくれる物はほとんど望美の好物ばかりで、彼女は満足そうにたらふく食べていた姿を思い出す。



「女の子には別腹ってのがあるの!」

「だからって肉まんかよ。」



とても女の子らしからぬ別腹に将臣は笑いを堪え切れない。



「いいもん!一人で行くから!!」



なかなか、行く気にならない将臣を放って望美は一人で行こうとする。


『将臣くんのバカ!』


心の中で叫ぶ。

本音はバイトや何やらと忙しい彼と少しでも多く一緒に居る時間が欲しいのに。

恋人同士になった今でさえ、会える時間がなかなか作れない。

肉まんはその為の口実。・・・・・いや、食べたくないと言えば嘘になる。
食べたいのも本音。

けれど仕方ない。

少し項垂れた姿を見たためか、後ろから宥めるような将臣の声がした。



「分かったよ。一緒に行くって。」







「寒いっ!!」

「そりゃぁ。冬だしなぁ。」

「将臣くん。風よけになってよ。」

「俺が寒くなるじゃねぇか!」

「だってぇ〜・・・・」



仕方ねぇな。



クスリと笑い、寒さに身を縮める望美の手をそっとつないだ。

じわりと伝わる、彼のぬくもり。

手をつなぐのは初めてでは無いのに何故だか照れくさくて、顔が赤くなる。


夜でよかった。


赤くなった顔を悟られなくて済むから。
けれど、突如無言になった望美の顔を将臣は覗き込んできた。



「どうした?」

「へ!?な、何が??」



動揺しながら答える望美を見て彼はニヤリと笑った。

すべてを見透かすように。



「なんだ、お前。照れてんのか?」

「そ、そんなわけないでしょ!!」

「そうかぁ?顔、赤くねぇ?」

「気のせいだよ!」



いきなり、本心を言い当てられて更に動揺する姿は疑惑を肯定してしまったようだ。



「素直じゃねぇなぁ。」



クスクス笑いながら将臣は呟く。



「素直だよ!」



負けじと望美も言い返す。



「態度は素直なんだけどな。」

「え?」



そう言うと、将臣は望美の手をギュっと握る。

途端、心臓の跳ねる音がした。
また望美の頬が赤く染まる。



「ほら。素直だ。」



ニヤリと、笑いながら見つめてくる彼を見返しながら、望美はちょっとした敗北感を味わった。




帰り道。

買いたての肉まんを望美は美味しそうに頬張る。



「家まで待てねぇのかよ。」

「だって冷めちゃう。」



熱い内が美味しいの。と言う望美の手から将臣は肉まんを取り上げてかぶりついた。
寒い外気を吸って冷えた体を温めてくれる。
確かに冷めてしまっては勿体無い。
彼女の言い分も一理ある。



「美味しいでしょ?」

「あぁ。」



ニッコリと笑う望美に肉まんを返す。
彼女はまた頬張り始めた。



「ごめんな。」



突然、謝ってきた将臣を驚きの目で見つめる。
そんな望美の頭を優しく撫で、申し訳なさそうな顔をした。



「あっちの世界でも、こっちの世界でも俺はなかなかお前の傍に居てやれない。」



望美の胸がチクリと痛んだ。


異世界で離れ離れになった二人。

めぐり会えた時は嬉しかった。

でも、将臣は『還内府』望美は『源氏の神子』

相対するお互いは敵同士で。

彼と戦わないで済む道を探した。

時空を越えてまで。

やっと、手に入れた平穏。

帰りたいと願った元の世界。

けれど、忙しい日常があることにかわりは無くて。

いつでも傍に居れる訳ではない。

そんなことは、良くわかっている。


けれど・・・・・



「全然、平気だよ!」



本音をそっと奥底に隠して満面の笑顔を向ける。
けれど、将臣は更に切なそうな顔で苦笑した。



「ホンッと、素直じゃねぇな。」



望美の腕を引き、胸の中に閉じ込める。



  瞳が笑ってねぇよ。



すべてを見透かしていたかのような言葉に望美は戸惑う。

困らせたいわけじゃない。

我侭を言うつもりじゃない。

けれど、心の中で燻り続けてる言葉を口にしたくて。
知って欲しくて・・・・・



「素直に言えって。」



将臣が望美の背を押す。



「だって・・・・・我侭になっちゃう。困らせたくないもの。」



ほんの少し見えた本音。

すると、将臣は視線を合わせながら呟く。



  いくらでも困らせろよ。



「お前の我侭を聞けるのは、俺の特権だろ?」



穏やかな笑みを零す。

望美は自分の心臓が跳ねる音を聞いた。


大好きな人の優しい笑顔。


この気持ちを言ってもいいの?

困らせて呆れたりしない?



「もっと・・・・・もっと一緒に居たい。」



搾り出すように言葉にする。



「いつでも、将臣君の隣にいたい。」



言いたくて言えなかった本音。


言い出すと全てが溢れてしまって。


途端。雪のようなキスが降ってきた。



「ずっと、隣に居てくれよ。」



望美は一瞬、思考停止した。


初めての口付け。


しかも、普段は聞けない甘い台詞。

これって、プロポーズ!?
え!?でも私達まだ高校生だよ?

そんな事をグルグル考えている望美の頬に将臣がそっと触れる。

跳ねる鼓動。
もう一度、キスの予感。




けれど。




「肉まん・・・・」

「へっ!?」



触れていた頬から手を離す将臣の指先には肉まんの欠片が付いていた。



「くっ付いてたぞ。」

「・・・・・・。」

「ん?どうした?」

「あ・・・・・そう。肉まんね。アハ。アハハハ・・・・・」



望美の引きつった笑いが聞こえてくる。



『何考えてるんだろ。私・・・・』



キスされるかと思った。


小さく溜息が零れる。

すると。

ちゅっと、可愛らしいキスが降ってきた。
不意を突かれて望美はキョトンとする。


顔を上げると、いたずらっ子のような笑顔の将臣。



「こうしたかったんだろ?」

「・・・・んなっ!!違う!!」

「素直じゃねぇなぁ〜。」



クスクス笑いながら再び歩き出す。

何度目かの敗北感。
けれど、好きだと気付いてしまった時にはもう手遅れ。

悔しいけれど仕方がない。


『だって、好きなんだもん。』


悔しいけれど・・・・。
でも、それでもイイ。
だって。


『将臣くんも同じでしょ?』


彼も自分と同じくらいの『好き』を感じてくれてるはず。
その証拠に。



「将臣くん!」



不意に呼ばれて振り向いた将臣に、
精一杯、背伸びをして口付ける。



「お返し。」



舌を出しながらのイタズラな笑顔。


将臣は少し赤くなりながらポリポリと頭を掻く。



「おら。帰るぞ!」

「将臣くん。照れてるの?」

「ば〜か。」



つんっと頭を小突く。
それは照れ隠しのようで、望美は嬉しくなる。


『勝ったつもりでいただけか?』


自分の不甲斐なさに恥ずかしくもあり、嬉しさもある。

こんなにも幸せな気持ちにさせてくれるから。

けれど、知られてしまうのは悔しいからまだ、教えてやらねぇよ。

その内、嫌ってほど教えてやるさ。



「覚悟しとけよ。」

「え?何??」



思わず零れた言葉を問い返されたが、将臣は小さく笑うだけ。



「何でもねぇよ。」



冷えた望美の手をしっかりと握った。


〜あとがき〜
兄貴ぃ〜!!いいな、兄貴。
兄貴はのんちゃんにメロメロだけどそれを見せんのが悔しいから隠してる感じであって欲しい。
何を覚悟しとけばいいんでしょうか?・・・・・・イヤン☆


   
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