無防備
「望美?」
ヒノエは机の上に突っ伏したままの望美に声を掛けてみた。
けれど、返事はない。
そうっと、望美の顔を覗きこむと、規則正しい寝息と子供っぽい寝顔が目に入った。
「こんなトコで寝て、キツくないのかい?」
返事を返すはずの無い望美に笑いながら問う。
ヒノエは静かに彼女の横に頬杖をついた。
望美は非常に安らかな寝顔をみせている。
無防備で。
無防備過ぎて、手を出すことが、おこがましく思えてしまう。
ある意味、最強とも言える防備だと、ヒノエは思った。
「これも、白龍の神子のお力かい?」
半分、冗談まじりでヒノエは微笑んだ。
望美の白く柔らかな頬や、赤い魅力的な唇に触れたくなるのを我慢しながら、ヒノエは彼女の髪を軽く指に絡めた。
「これくらいは、お許し頂けるだろう?」
指に絡めた髪一筋、一筋に愛しさを込めながら、くるくると指と指の間を通して弄んだ。
「それにしても、全然気付かないとはね。」
敵に襲われても余裕だからなのか、それとも、ヒノエの存在を無意識に理解して警戒心を解いてしまっているのか。
後者であって欲しいと、ヒノエは思った。
もちろん、敵襲にあえば速やかに排除するのだが。
「けど。もし、俺が。そんな不届き者だったらどうするんだい?」
こんなにも無防備で隙だらけの宝物。
ヒノエは髪を弄っていた手を止めて、先程、自制した筈の思いの通りに望美の顔に近づいた。
望美の寝息が、ヒノエの肌に届く位の距離。
今ならば、難なく唇を奪える。
しかし。
ヒノエは顔を離した。
そして、クスリと笑む。
「神子姫との貴重な始めての口付けが寝込みを襲ってなんて、色っぽくないからね。」
もう少し、とっておくよ。
そう言うと、ヒノエはもう一度望美の髪を掬った。
「とっては置くけれど、待つのは余り好きじゃないからね。待ちきれなくなったら。」
攫ってしまうよ?
掬った望美の髪に、優しく口付けてヒノエは、ふわりと笑った。

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