Call me
『還内府殿。』
『重盛』
その名前で呼ばれることに違和感がなくなったのはいつからだろうか?
ぼんやりと空に掛かった月を見上げながら将臣は
陣から少し離れた所に座っていた。
『有川将臣』
今では本当の名前で呼ばれる事の方が少し違和感を感じる。
違う名前で呼ばれようが、俺は俺。
名前なんて識別するための暗号みたいなもんだ。
別に関係ないさ。
勝手にそう呼ばれる事にも慣れた。
けれど、なんでかな?
お前が呼んでくれると。
意味無く涙が出そうになる。
お前と過ごす僅かな時間が
永遠に続けばイイのにと
思ってしまう。
一緒に居るのが当たり前で。
『将臣くん』
と呼ぶお前が、あまりにも当たり前過ぎて。
――――――会いたい。
「あ〜・・・・。カッコ悪ぃ〜。」
そんな思いに囚われる自分が可笑しい。
可笑しくて
寂しい。
将臣はゴロリと、草叢に寝そべった。
3年前と変わってないお前。
変わってしまった俺。
時間が戻ればいいのに。
瞼を閉じればあの頃のお前が思い出される。
笑顔も
泣き顔も
怒った顔も
どれも愛しいお前が。
色んな感情を込めて俺を呼ぶ。
『将臣くん。』
俺は、自分でも分かるくらい穏やかな顔になった。
お前を思うだけでこんなにも
心が温かい。
「還内府殿。」
不意に、背後から呼ばれ現実に引き戻される。
「ん?どうした?」
耳慣れた名前に反応して、振り返れば深々と頭を下げた従者がいた。
「経正殿がお呼びにございます。」
「分かった。今、行く。」
片手を挙げて返事を返し、将臣は立ち上がった。
今度はいつお前に会えるだろうか。
月を見上げながら想う。
名前を、呼んでもらえるだろうか。
愛しいお前の
優しい、暖かな声で
『将臣』と。

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