夢から覚めたら
「朔、譲君。おはよ〜。」
朝餉の支度をしていた2人に、朝の挨拶。
朔も譲も驚いたように振り替える。
そこには、身支度もしっかり整えた望美が笑顔で立っていた。
「望美。おはよう。」
「おはようございます。先輩。」
早起きが得意では無い望美を起こしに行くのが当たり前の2人にとって、望美の早起きは珍しいものだったが、
本人は別段、寝不足のようでもないし、清々しささえ、感じる。
きっと、昨日の早寝のお陰だろうと、2人は思った。
そして、その起き抜けで気分のいい望美は土間を降りた。
「ねぇねぇ。何か手伝うことは無い?」
「そ、そうですね・・・・・。」
望美の料理の腕前を熟知している譲は返答に窮する。
そんな彼に助け舟を出したのは朔だった。
「望美。それでは兄上を起こしてきてくれないかしら?」
「え?景時さんを?」
「そう。他の方々は起きているのだけど、兄上がまだ・・・・。きっとまた、遅くまで発明でもしていたんじゃないかしら。」
朔は困ったように溜息を吐いた。
望美は大きく頷き、
「じゃぁ。景時さんを起こしに行ってきます!」
意気揚々と、景時の私室に向かった。
廊下を進み、景時の部屋の前までやってきた望美は先ず、障子を開けずに中の景時に声を掛けた。
「景時さん。おはようございます。」
「・・・・・・・・。」
しばし、待ってみても返事は無い。
もう一度、望美は声を掛けた。
「景時さん?朝ですよ〜。」
「・・・・・・・・。」
また、返事は無い。
「仕方ないな。失礼しま〜す。」
そう、一言断りを入れ、望美は静かに障子を開いた。
中には案の定、爆睡中の景時。
近づいて、そっと顔を覗きこんでみると、なんとも気持ちよさそうな顔をして眠っている。
「可愛い。」
望美は、フフフと、顔を綻ばせた。
いつも以上に穏やかで、柔らかな彼の寝顔は何処と無く、子供っぽさが滲み出ているかのよう。
愛しさが増す。
目を細め、彼の短い髪に指を這わせながら望美は景時の頭を撫でた。
起こしに来たはずの使命を忘れて、ずっと、見続けていたい気持ち。
望美は飽く事無く、優しく、優しく、撫で続けた。
「・・・・・・ん・・・・・・。」
ふと、景時が声を漏らした。
望美は慌てて、手を引っ込める。
悪戯がばれそうな子供のように、望美の心臓は早鐘を打ち、体は硬直した。
けれど。
景時は一向に起きる気配を見せなかった。
望美はほぅと、溜息を吐く。
だが、仮にも源氏の戦奉行が人の気配にも気付かずに爆睡していいのかな?と、望美は思い頭を捻った。
途端。
「え!?」
腕をグイッと引かれる。。
そして、咄嗟の事で反応が出来なかった望美は、そのまま床に倒れ落ちた。
「痛たた・・・・。」
衝撃は少なかったが軽く頭を打ったようだ。
打ったところを擦っていると、なんだか暖かなモノが頭の下にあるのに気付いた。
見ると、それは逞しく筋肉質な腕。
更に視線を這わせると、目の先に緑色の毛先が映った。
それは見慣れた髪の色。
そろ〜っと、視線を落としていくと。
「かっ!景時さっ・・・・!!」
望美のちょうど胸の近くに景時の穏やかな寝顔があった。
望美は頭の中が真っ白になりそうになる。
逃げ出そうと身を捩ってみるが、もう一方の腕が、望美の腰を掴んで放そうとしない。
それでも望美が一生懸命脱出を試みていると。
「んん〜〜〜・・・・・・・。」
少し唸りながら、景時は望美の胸へ、顔を埋め、枕のようになっていた腕も駆りだして望美をさっきよりもしっかりと、抱きしめた。
それは宛ら、抱き枕を抱くように。
「あの・・・・・。景時さん?」
起きているのだろうかと、声を掛けるも、景時からは返事は無い。
むしろ、望美の胸に顔を埋めたことにより、先程よりも安らかな寝顔を見せてくれている。
叩き起こす事も、無下にすることも出来ないのは、やっぱり惚れた弱みなのだろうか?
ふぅ。と小さく諦めの溜息が零れると、望美は自由の利く手でまた、景時の頭を撫でだした。
望美の顔は、緊張と気恥ずかしさとが、ごちゃ混ぜになったような顔をしていたが、何処と無く嬉しそうな顔にもなっていた。
その行為が、まるで恋人同士のようだから。
『いつか、こんな事が当たり前のようになる日が来ると良いな。』
そんな思いを抱きながら望美は終始、顔を綻ばせたままだった。
「・・・・・ん〜?・・・・。」
障子を閉めていても入ってくる朝の日差しによって、景時はゆっくり目を覚ました。
時を数えなくても、いつもより眠り続けたことを体の何処かで理解する。
『そういえば、昨日は夜更かししてたんだっけ。』
寝過ごした理由に合点がいくと、景時は大きなあくびをした。
次いで、体を伸ばそうと腕を動かそうとした時、ようやっと彼は自分の腕が抱きとめているモノに気付いた。
そして、目の前にある暖かで柔らかい膨らみにも。
何だろう?とよくよく見ると。
「・・・・・・胸?」
更に、ソロッと顔を上げると。
気持ちよさ気にに眠る、望美の顔が目に入った。
「・・・・・・・・・・えぇぇぇ!!!???」
景時は驚愕し、このオイシイ・・・・・・もとい、普通ではありえる事の無い状況に困惑する。
一体どうして、彼女は自分の腕の中で眠っているのだろうか。
「あ・・・・の、望美ちゃん?」
真相を知るべく、景時は望美を起こそうとした。
ところが。
「んっ・・・・・・。」
望美は起きるどころか、今度は逆に、景時の胸板に擦り寄って頬を寄せだす。
そして、幸せそうに微笑みを浮かべた。
「うわ・・・・・・。」
景時は起こす手を止め、感嘆を零す。
望美が無意識でした、その行為があまりにも、
『っっっっ・・・・・・可愛いいっ!!』
そう、思ってしまったから。
出来ればもう少し、このままで居て欲しくなってしまったから。
赤く、それでも嬉しそうな顔の景時は、ゴホンと咳払いをしてもう一度、望美を抱く。
「こんな寝起きも悪くないねぇ〜。」
景時は照れながら、そっと望美の額に軽く口付けを落とした。

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