陽だまりに誘われて
「那岐〜。那岐〜〜。」
橿原宮を先程から何度回っているだろう?
千尋は少し疲れて溜息を吐いた。
政務中だというのに、那岐の姿が一向に見当たらない。
一人でこなすには多すぎる仕事の山に、いい加減、千尋はウンザリした。
仕事そっちのけで那岐は一体何処に行ったのだろう?
気分転換も兼ねて探していたのに逆に疲れてしまう事になるなんて予想だにしていなかった。
「もう、何処に行っちゃったんだろ?」
これだけ探しても見つけられないような場所に隠れた那岐に呆れながら千尋は木陰に腰を下ろした。
「ホント、那岐は自由なんだから。」
「何か問題ある?」
独り言のつもりだったのに、返事が背後から返ってきた。
千尋が驚いて振り返ると、木の後に寝っ転がった那岐がいる。
「那岐!!いつから居たの!?」
「二時間くらい前から。」
那岐は眠そうに欠伸を一つした。
「探してたんだよ?ここで何してるの?」
「昼寝同好会の活動。」
「ただの昼寝でしょ?」
やや面倒くさそうに体を起こした那岐は寝ぼけた眼で千尋を見た。
彼女は少し呆れた顔をしている。
「突然居なくなるんだもん。何処か行くなら言ってよ。」
不満を滲ませた抗議を受けても那岐は「はいはい。」と応えて、また欠伸をした。
「千尋もする?昼寝同好会の活動。」
「だから、ただの昼寝でしょ。それに、仕事いっぱい残ってるのよ?そんな暇ないよ。」
「ふ〜ん。大変だね。」
思いっきり他人事のように言って、那岐はまたも寝る体勢に入る。
「そんなに寝てて、夜も寝てるのがスゴイよね。」
「寝る子は育つっていうだろ?」
「そんなに育ってどうするの?」
悪びれもしない那岐に千尋も諦めたように返した。
ふと、上を見上げれば太陽は機嫌よく輝き、風もそよそよと心地良い。
確かに那岐でなくても眠くなってきそうな陽気。
さっきまで呆れ顔だった千尋の顔に笑顔が咲いた。
「気持ち良いね。私もなんだか眠くなって来ちゃった。」
「じゃあ、千尋も寝たら良いんじゃない?」
「ダメよ。もうそろそろ戻ってお仕事しないと。」
「ふ〜ん・・・・・・。」
残念そうに断った千尋は立ち上がった。
那岐と一緒に、ゆっくりと穏やかな時間を過ごしたいとは思う。
けれど、王としての責任感を持っている千尋にはどうしてもここでサボるという選択肢が出てこない。
「じゃあ、後でね。那岐・・・・・。」
と、手を振って行こうとした途端。
那岐が千尋の腕を掴んで、強引に引っ張った。
「え?きゃっ!!」
千尋はさっきまで座っていた場所に軽い尻餅をつく。
「痛たた・・・・。何?」
困惑する千尋の太ももに那岐は前触れも無く、ゴロリと頭を乗せて横になった。
「な、那岐!?」
千尋は驚いて声を上げた。
ほんの少しの重みが太ももに掛かって、彼の頭の温度がちょっとくすぐったい。
思わぬ出来事の気恥ずかしさに、千尋は頬を染めた。
「ちょうど、枕が欲しかったんだ。」
「枕?」
「オヤスミ。」
言ったと同時に那岐は心地良い寝息を立て始める。
もちろん千尋は慌てて那岐の頬を軽く叩いて抗議した。
「ちょっと、那岐!私、帰らなきゃ。皆待ってるだろうし、仕事残ってるし・・・・・・。」
「あぁ。もう、煩いなぁ。」
そう不満げにぼやきながら那岐は少し体を起こす。
そして、同時に千尋の後頭部を掴んで引き寄せて。
千尋の声を遮るように口付けた。
顔を離すと、那岐はニヤッと笑む。
「じゃ。オヤスミ。千尋。」
また、千尋の腿に頭を乗せて静かな寝息を立てた。
しばし呆然としてしまった千尋だったが、ハッと我に返る。
「オヤスミじゃなくって!!那岐!・・・・・・って、寝ちゃったの?」
彼は既に夢の中の住人と化していた。
千尋の声が、耳に入ってる様子は一切無い。
「ど、どうしよう・・・・。」
官人達の慌てふためく様子が眼に浮かぶ。
今頃、大掛かりな捜索が行われているかもしれない。
那岐を放ったらかして戻るのは簡単だ。
けれど、こうして無防備に過ごす、甘い時間が何だか愛しくて。
千尋は優しい瞳で那岐を見下ろす。
「少しくらい、大丈夫かな?」
皆には大目に見てもらおうと考えを巡らせて。
千尋はそうっと、那岐の髪を撫でた。
〜あとがき〜
初☆遙か4SSです!
もちろん最初は那岐くん♪
私も一緒に昼寝同好会入りたいです。ハイ。
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