第十五話 人に歴史あり
赤の王の声の方へ走って行くと、そこでは火花を散らしながら睨み合う赤の王と白の女王が居た。
「この女狐め。今日という今日は我慢ならん。」
「あら、奇遇ね。私もそう思っていましたわ。」
赤の王は正に『鬼の形相』という言葉が当てはまるほどに幼い顔を怒りに震わせ
白の女王は柳眉を寄せた、鋭い目つきをしている。
空は快晴のはずなのに、二人の居る場所だけに暗雲が立ち込めていた。
そこへ近づける者は誰も居らず、兵達は十歩くらい後ろに下がって君主の動向を伺っている。
流石の望美達もそれと一緒で近づくなどという無謀な行動に移らずに様子を見守った。
「よくも、わしの大事な息子を牢に繋いでくれたな。只では済まんぞ!」
「まぁ。出来の悪い嫡男を躾けてあげたのよ。感謝の言葉くらいでないのかしら?」
「貴様!!重盛を愚弄するか!!」
「あんな嫡男にした親の顔が見てみたいわ。」
「何じゃと!?許さーん!!!」
白の女王の発言に激怒した赤の王は禍々しい気を発し出した。
そしてその気の中から怨霊達が次々と生まれ、白の女王に向かって襲い掛かっていく。
だが、白の女王はそれらを鼻で笑うかのように一蹴して消し去る。
そして、また赤の王が怨霊を白の女王へ向かって放つが、結果はさほど変わらず、怨霊を出しては消す、出しては消すといった
周囲には全く影響のでない戦いを繰り広げた。
その騒々しさに、気を失っていた九郎が目覚めた。
「・・・・・ハッ!政子様!!離せ、俺は政子様をお助けせねば・・・・・・。」
「君が行っても邪魔になるだけですよ。」
弁慶の言うとおり、二人の戦いは人知を超えており、近づく者は一人も居ない。
その状況が分からない分けではない九郎は、グッと押し黙った。
「・・・・将臣くん。止めてきなよ。」
「はぁ?なんで俺が。」
「だって、『重盛さん』のことで揉めてるんじゃないの?将臣くんが行けば一発で事が収まるんじゃないの?」
「俺は人身御供か!第一、俺は『重盛』じゃないって何度言えば・・・・・。」
将臣がそう抗議しようとすると、知盛が将臣の肩を抱き薄ら笑いを浮かべた。
そして、その隣に重衡が爽やか笑顔で並ぶ。
「さぁ。参ろうか『兄上』」
「ご一緒しますよ。『兄上』」
「・・・・・・お前ら面倒事を押し付ける気だろうが。」
将臣は額に青筋を立てながら知盛をウザったそうに振り払った。
「大体、俺が行って止まるのか?そんな簡単なもんじゃないだろう。あの二人のいがみ合いは。」
「確かに。そんな簡単なものじゃありませんね。」
将臣の言葉に弁慶を始め皆が頷いた。
「え?何か因縁でもあるんですか?」
そう望美が尋ねると、弁慶は至って真剣に事の起こりを話し出した。
「始まりは数年前。先代の王が亡くなられた事がきっかけでした。
彼の後を次ぐとされた有力候補は赤の王と白の女王。この二人だったのです。
そして、それを最終的に決定するのがこの国の守り神。
けど、守り神はどちらも選びませんでした。
『貴方達には足りないものがある。今の貴方達にはこの国を統べることは出来ない。』
そういい残し、その後神が現れることはありませんでした。」
弁慶は悲しみを含んだ瞳で空を仰いだ。
言葉を区切った彼に代わり、リズヴァーンが口を開く。
「無論。そのことに二人の王は納得などしなかった。
互いに武力を用いて互いを潰そうと考えた。
だが、拮抗した力はどちらにも勝利をもたらしはしなかった。」
「その後は冷戦状態で静かな睨み合いが続いていたんだよね。今日までは。」
景時が「ははっ。」と乾いた笑いを零すが、それは何の効力もなさない。
望美は、あの二人の因縁に胸を痛めた。
その胸の痛みは、民の痛み。
そして、どちらも選んで貰えず宙ぶらりんになった王達の痛みのように思えた。
「そうだったんですか・・・・・・。じゃあ、クロッケー大会もその因縁が引き起こした戦いだったんですね。」
「いや。あれはその前からのただの趣味。」
「あ。そうなの?」
将臣の言葉に望美は一瞬こけそうになる。
「王の覇権争いを繰り広げる前からの戦いだよ。」
「ふ〜ん・・・・・・。」
呆れたようにヒノエが言うと、望美も苦笑いした。
「ともかく、こうして冷戦状態が解除され互いに戦ってくれるのは好都合です。」
「??どうしてですか?」
望美が尋ねると、弁慶は少し悲しげな瞳で彼女を見返した。
「望美さん。何故、神がどちらかを選ばなかったと思いますか?」
「えっと・・・・・。それは・・・・・。」
望美が思案していると弁慶はフッと切なそうに笑った。
「どちらにも王としての資質が無かったと、僕は考えたんです。ならば、資質が無いもの同士が何時までも玉座を巡る争いをする必要はない。
互いに潰れて、新たな王を祭り上げれば良いと。」
「・・・・・弁慶さん。」
「そして、僕はそのきっかけを君に作ってもらおうと思った。正義感の強い君なら、この馬鹿馬鹿しい争いを見てみぬ振りは出来ないでしょうから。」
「その為に、私に小さくなる薬をくれたんですか?」
「えぇ。その通り。もっと言えば、君の目の前を九郎に通過させたのも僕です。」
「そんな前から。」
「君を利用するようなことをしてすみません。ですが、彼らさえ居なくなれば民の生活は安定するはず。そして守り神ももう一度姿を現してくれるはずです。」
「・・・・・・・弁慶さん。それは、少し違うんじゃないですか?」
望美は強く、否定した。
確かに、弁慶の言う解決法は間違ってないかもしれない。
けれど。
「神様は『足りないものがある』って仰ったんでしょう?なら、その足りないものを見つけられたらもう一度神様は現れてくれるんじゃないですか?」
「・・・・・望美さん。」
「王の資質とか、難しいことはよく分からないけど。あの二人が戦って潰れてしまったら、きっと悲しむ人が居ると思うんです。
だから、その足りないものを見つけてからでも遅くないんじゃないですか?」
そう言って微笑んだ望美に弁慶は情けない顔で笑った。
「君は・・・・・本当に不思議な人ですね。」
思いもよらない事を言う。
けれど、それもまた悪くないと思わせてしまう。
「君の、いう通りかもしれませんね。」
弁慶は降参と、いうように首を振った。
「では、その『足りないもの』を見つけなくてはいけないな。」
望美の思いに賛同するように、敦盛が優しく微笑んだ。
「それはどうやって見つけるんだよ?」
「それは・・・・・う〜ん。」
望美を始め、皆が「う〜ん。」と唸りながら頭を捻った。
けれど中々簡単に答えが出るような問題ではない。
ふと、渦中の二人を見れば互いに力を削りあった結果か、
ゼェゼェと肩で息をしながら未だ睨み合ったままだ。
「ていうか・・・・・。何だかんだで気が合いますよね。あの二人。」
「え???」
望美の一言に一同、ギョッとして見返した。
「だって、そうじゃなかったらあんなに楽しそうにクロッケーなんてしないんじゃないですか?」
確かに望美の言葉は一理ある。
あの、退屈で仕方のないクロッケー大会を一番楽しそうに参加していたのは
他でもない、赤の王と白の女王だった。
敵対している割には、試合内容も穏やかで卑怯な手など一切使っては居ない。
実にスポーツマンシップに則った試合であったように望美は感じた。
「共通の趣味を持ってるんだし。もっと仲良くすればいいのに。」
そう、望美は呟いた途端。
ハッと何か閃いた様な顔になった。
「・・・・・そうだ。それだ!!」
己の考えに納得すると、望美はクルリと王達の方を向き、走り出した。
この突然の行動に皆、仰天する。
「望美!?」
「おい、待て!!」
「望美さん!!」
「神子!!」
それぞれが懸命に呼ぶが、望美は笑顔で皆に振り返り。
「大丈夫!任せて!!」
自信満々の笑顔を返した。
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〜あとがき〜
弁慶さんの謎の行動が明らかに。
次回くらいで終わるのか!?

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