恋して焦がれて
喧嘩の原因は何時だって些細なことばっかり。
目玉焼きには醤油かソースかとか、カーテンの色は何色とか。
ホントに小さな意見のぶつかり合い。
「もう!!!なんでそんな言い方するの!?」
バン!!と、望美は激しく机を叩いた。
掌からジンジンと痛みが湧いてくるが、そんな物今は全く気にならない。
今、一番彼女の頭を占めているのは目の前の恋人への怒りだった。
しかし、知盛はそんな望美の怒りなどさして気にすることなく。
「・・・・・・声がでかい。」
と、コーヒーに口をつけるだけ。
そんな悪びれもしない彼の態度が余計に望美の怒りを押し上げる。
「知盛がデカイ声を出させてるんでしょ!?」
「俺は声を荒げろ等とは言ってないぞ。」
望美とは違い、いつも通りの淡々とした口調で知盛は答える。
望美はギュっと唇を噛むと、更に大きな声で吐き捨てるように言った。
「もういい!!知盛なんて大っ嫌い!!」
そう叫んで、望美はこの場を去ろうと知盛に背を向け大またで歩いていこうとする。
ところが、そんな彼女の意とは反する様に体が後ろへ引っ張られた。
行き着いた場所は広くて大きな知盛の腕の中。
望美は始め、その終着点に驚いたが直ぐに身を捩ってそこから抜け出そうと足掻く。
だが、知盛はしっかりと望美を抱きとめていて到底抜け出すことは無理で。
暫く足掻いてその事を知った望美は、足掻くのを止める代わりにツンと顔を背ける。
その様子を知盛は只、黙って見ていた。
望美もムスッとしたまま何も言わない。
二人の間に長い長い沈黙が訪れる。
ところが、永遠に続くとも言えそうな沈黙を破ったのは知盛だった。
不意に、望美の髪をクルクルといじり出す。
その指先を、望美は怪訝な瞳で見ていた。
と、知盛は指の動きを止めて、望美へ声をかける。
「・・・・・・・おい。」
「な、何よ・・・・・・。」
棘のある返事をすると、知盛は更に望美を抱きしめた。
望美は、今度は抵抗しなかった。
強く抱きしめる知盛の体温が、いつもよりも熱く感じて自分にもそれが移ったように体が熱くなる。
ただ、抱きしめられているだけなのに望美の心臓がゆっくりと駆け出していく。
言葉を続けない知盛の様子を伺おうと望美はそうっと、首を回した。
そうして行き着いた視線の先には無表情の知盛の顔。
けれども、その赤い瞳は少し切なさが宿ったかのように細い目をして望美を見ていた。
「と、知盛?どうし・・・・・」
「好きだ。」
「どうしたの?」と、問おうとした望美の言葉を知盛の静かな声が遮った。
突然の告白に、望美は戸惑った。
「え、えっと・・・・。知盛?」
望美の頭からは先程の怒りは何時の間にやら消えうせていた。
今は、突然の知盛の言葉に困惑している。
そんな望美に、知盛はもう一度静かな声で言った。
「・・・・・お前が、好きだと、言っている。」
「う、うん・・・・・。」
心臓は煩いくらいに加速していて、知盛にも聞かれてしまっているのかもしれないと思う程。
「だから、お前を放さない。・・・・例え、お前が俺を嫌おうが。」
知盛は柔らかな手つきで望美の頬に手を添えた。
いつもよりも遠慮がちに添えられた手に望美は自分の手を重ねる。
本当に嫌いになんてなれるはず無い。
『好き』という、たった一言でこんなにも胸が震えるのだから。
「・・・・私のほうが、もっともっと好きだよ?」
呟いた望美の言葉に、知盛は一瞬驚いたように間を置いて、
けれども直ぐに口元を綻ばせると。
「いいや。俺の方だ。」
そう言って蕩けてしまいそうな深いキスを望美に送った。
例え喧嘩をしても、
何があっても、
いつも貴方にドキドキさせられて、
いつだって悔しいくらい貴方に恋をする。
眩暈がするキスの中、酔いしれるかのように望美は静かに目を閉じた。
「だから!!エビフライにはタルタルソースなのっ!!」
「揚げ物にはソースだと決まっている・・・・・。」
きっかけはいつでも些細な事。
けれど、その積み重ねが二人の歴史の積み重ね。
〜あとがき〜
26000打御礼SSです。
槻宮さまリクエストの知×望。
ヤバイくらい遅れてホントにごめんなさい!!
時間ばっかりかかったくせにご希望に叶う物になったか不安でイッパイなんですが、
楽しんで頂けたら幸いです。
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