あなたと見る雪
早朝、冬の寒さに身を震わせながらガラガラと納戸を開くと、そこは一面の銀世界であった。
「わぁ。」
斗南の地へ移ってから迎える初めての冬。
生まれてこのかた、冬を体験したことは何度もあるが、
京に居た時も、江戸に居た時も、これほどまでに見事な雪景色を拝んだことはない。
見渡す限りの白銀は、何処が畑なのか道なのか、それすら分からないほど満遍なく降り積もり
昇り始めた朝陽に照らされて、キラキラと眩しく輝いている。
千鶴は急いで、身支度をしている夫の下へ向かった。
「一さん!一さん!!」
弾んだ声で自分を呼ぶ妻に、一はゆっくり振り返る。
パタパタと小走りで走ってきた千鶴は目を輝かせていて、そんな姿に思わず頬が緩む。
「どうした?千鶴。」
「一さん!ちょっと来て下さい。」
高揚しながら自分の手を引く妻に、一は黙って付いていった。
「ほら、見てください。」
そう言って千鶴が見せたのは外に広がる銀世界。
これには一も口を噤んだ。
「見事なものだな。」
「はい。」
驚嘆して呟いた言葉に千鶴もコクリと頷く。
そして、今度は千鶴がポツリと呟いた。
「一さんは、雪のようですね。」
唐突な言葉、一は首を傾げた。
「・・・・・冷たい。ということか?」
『雪』から連想される言葉を上げると、千鶴は意外そうに驚いて首を横に振った。
では、一体どういう意味なのか。
尋ねるように顔を覗くと、千鶴は愛しげに目を細めた。
「その・・・・、雪って見ていると不思議と温かくなるんです。心が。」
確かに、雪というのは冷たく、厳しい。
けれども、只管に降り注ぐ様は、凛々しくて、強かで、美しくて。
浄も不浄も全てを包むほど優しい。
見ている者の心に灯火を宿すかのように。
その生き様は隣に寄り添う愛しい人を彷彿とさせた。
「だから、私。雪が好きです。一さんに良く似ているから。」
雪を見れば、貴方を思い出す。
例え、貴方と共に歩めなくなっても。
別れが訪れても。
きっと無数に降る雪に貴方を重ねて愛しさに満ちるのだろう。
ふと、千鶴の手を一が拾い上げた。
温もりを感じあうように優しく指と指を絡め、握る。
「・・・・・ありがとう。」
ありきたりな言葉ではあるが、彼女の思いが嬉しくて素直な言葉を返す。
「俺も雪は好きだ。お前と見る雪は尚一層、好ましい。」
「お前は?」そう問うかのように見つめると、千鶴は少し頬を赤くして、コクリと頷いた。
殊更愛しさを込め合って、二人は見つめ合い微笑んだ。

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