happy childhood










幼い頃はよく3人で遊んだ。

もちろん、先輩と兄さんと俺の3人で。

かくれんぼ。

鬼ごっこ。


色んな遊びをした。

子供なりにとても楽しかった記憶がある。

でも、その中に一つだけ。

あまり楽しくなかった遊びもあった。



「先輩。水を持ってきましたよ。」

木陰で座り込んでいた望美に譲は水筒を手渡した。

熊野の夏は非常に暑い。

そのため、散策中にこうして木陰で涼むのが定番になっていた。

暑さでぐったりしていた望美は水を飲むと生き返ったかの様に元気な顔を取り戻す。


「はぁ〜。譲くん、ありがとう。」

「いえ。どういたしまして。」


譲も嬉しそうな顔を見せた。


「でも、熊野ってほんっと暑いね〜。」


手で自分を仰ぎながら望美は溜息混じりに、こぼした。


「まぁ。経度は九州と同じくらいですからね。」


暑くて当然と、譲もこぼす。


「地元の人達は平気なのかな。」

「そうみたいですね。ほら、あそこ・・・・・。」


と言いながら譲が指し示した先には、この暑い中元気よく遊ぶ子供達の姿があった。


「元気だね〜。」


その子達を見ながら望美はクスクス笑った。


「私達も、小さい頃はあんなに元気に遊んだよね。」

「そうですね。先輩と兄さんは、よく熱中症になりかけたりしてましたしね。」


今度は譲がクスクスと笑い出す。

望美は恥ずかしくて思わず顔を赤らめた。


「も、もう!恥ずかしいから言わないでよ!」


ぷぅ、と頬を膨らませた表情が可愛かった。

譲は優しい顔で


「すみません。」


と言った。


目の前で元気よく遊んでいた子供たちが途端、静かになる。

そちらに視線をやると、木陰に筵を敷き、茶碗やお箸を並べているのが見えた。


「おままごと・・・・・かな?」

「そうみたいですね。」


一人の女の子が真ん中に座り、男の子がその前に座る。

そして、一番小さい男の子がその横に座って、女の子に色々と指図されていた。


「あの子がお母さんかな?」


望美は女の子を見つめる。


「で、正面の子がお父さん。」

「もう一人が子供役ですかね。」

「うん!そんな感じ。」


望美は興味深そうに彼らを見ていた。

そして、懐かしむように呟く。


「私達もおままごとしたね。懐かしいなぁ〜。」


その言葉に譲は一瞬悲しげな表情になったが、望美はそれに気付かなかった。


「私がお母さんで、将臣くんがお父さん。それで、譲くんが・・・・・。」

「・・・・・子供役です。」


おままごとをする時、『お父さん』はいつも兄さんで俺は二人の『子供』の役。

それは、弟の俺には回って来る事は絶対に無い役だった。

だが、それに不満を漏らした事は何故か無かった。

・・・・・・・理由は思い出せない。


「将臣くんってば私が作った葉っぱのお皿壊したり、靴脱いで上がってって言ったのに
 そのまま上がってきてお気に入りのシート汚すし、『頑固オヤジのマネ』とか言ってちゃぶ台ひっくり返すし・・・・・。
 とんでもないお父さんだったよ。」

「その度に先輩は泥団子を投げつけてましたね。」

「で、結局おままごとじゃなくなるんだよね〜。」


2人はクスクス笑った。

懐かしい思い出が色鮮やかに蘇る。

とても、楽しかった記憶。


ふと、望美は笑いを止めた。


「そういえば。譲くんも『お父さん』役したよね。」

「え!?」


譲は目をパチクリさせた。

いつだって自分は『子供』の役で、それ以外の役をした覚えは無い。

しかも『お父さん』役。


「あの・・・・・。先輩、何かの間違いじゃないですか?」

「・・・・・やっぱり忘れてる。」


また、望美はぷぅ、と頬を膨らませた。

一体、いつの事かも思い出せない。

それでも譲は必死に記憶を辿っていた。

望美は痺れを切らし、少し怒った口調になる。


「私のおままごとデビューの相手は譲くんだったでしょ!?」

「おままごと、デビュー??」


望美の言葉に譲はハッとした。

どうして、忘れていたのだろうか。

大切な思い出を。


初めておままごとをしたのは、望美が両親におままごとセットを買って貰った時だ。

嬉しそうにそれを見せに来た望美の希望で一緒に遊ぶ事にした。

その時、譲を『お父さん』役に指名したのは紛れも無い、望美本人だった。


「でも、将臣くんが子供役つまんないって言って・・・・・。」


早々に飽きた将臣を見て、望美が寂しそうな顔をしたのを覚えてる。

そんな顔をさせたくなくて、笑って欲しくて。


「譲くんが将臣くんを『お父さん』にしたんだよ。」


望美は尚も怒ったような顔で譲を見た。


「すいません・・・・・。どうして忘れてたんだろう。」

「ホントだよ。もう。」

「すいません。」


譲は平謝りだ。


「何で将臣くんに譲ったの?」


小さい頃から思っていた事を問うてみる。

ひょっとして、自分の『お父さん』役が嫌だったのだろうかと、考えた事もあったのだ。


「そ、それは・・・・・。」


口元を押さえながら譲は小さく答える。


「先輩が、泣きそうだったから・・・・・。」


その返答に望美はキョトンとしたが、すぐにプイっと、そっぽを向く。

そして。



「いつ、譲くんが『お父さん』してくれるか待ってたのに・・・・・。」



ポツリと、聞こえないくらい小さな声で呟いた。


「??先輩?何か言いました?」


譲の耳には入らなかった事を、表情から確認すると望美はニッコリ笑顔を向けた。


「譲くんには教えてあげないもん。」

「え!?」

「さ。そろそろ行こっか。」

「え?先輩!?」


譲の頭に疑問を浮かべさせたまま、望美は立ち上がる。

そして、嬉しそうに歩き出した。


「今度、宿の子達と一緒におままごとしよっか?」

「いいですよ。先輩がお母さん役ですか?」

「うん。そしたら譲くん『お父さん』になってくれる??」


探るように見つめられ、譲は一瞬戸惑ったが直に笑顔を向ける。


「もちろん。よろこんで。」




   
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