*この話は九郎処刑イベントをもとに、作者が勝手に想像して書いたお話デス。

 *作者も書いててドン引きするくらい暗いネタです。(しかも死にネタ。)

 *ご理解頂いて、それでもOKよ!という方のみスクロールでお読み下さい。




















胸に抱くは君への思い










「これより、謀反人、九郎義経の罪状を申し渡す。」



声高らかに御家人は書状を読み上げ始めた。


晴天の下。


縄をかけられた姿で筵の上に座らされた九郎は、黙ってその言葉を聞いていた。


落胆の色も、悲痛な色も見せる事無く。


ただ、静かに目を閉じていた。


多くの御家人達が集まる中、今日。




九郎の処刑が執り行われる。




その場には、実の兄である鎌倉殿の姿は無い。



「――――よって、九郎義経を処刑に処する。」



御家人が罪状を読み終わると、九郎も静かに目を開いた。


瞳の色に濁りは無く、何とも落ち着いた表情。


その姿に、書状を読み上げた御家人はグッと拳を握った。




彼は、九郎が謀反人では無いと知っている。


何故なら、九郎の下で数多の戦を経験していたからだ。


口に出さずとも、兄・鎌倉殿の築く世のために戦って来た事を彼のみならず、


この場に集った殆どの者達が知っていた。


だが、鎌倉殿のこの決定を翻す事など出来る者はいない。


出来ることと言えば。



「九郎殿。その・・・何か最期に願いはございますか?」



戦場でも話したことの無い、元総大将に小さな声でそう尋ねた。


すると、九郎は首を横に振る。



「な、何か食べたいものとか、欲しいものとか。ございませんか?」



しかし、また九郎は首を横に振った。



「で、ですが・・・・・。」



彼は、九郎のために何かしたかった。


無謀とも言える戦で、何度も命を救ってくれ、部下の事を良く考えてくれた九郎に。


恩返しと呼べるほどのことではないけれど。


だが、九郎は穏やかに微笑むと御家人にこう告げた。



「そんな事をしては、お前が咎められてしまうだろう?」



処刑の決まっている罪人の願いを叶えるなど、頼朝が許すはずが無い。


例え、この場に居らずとも何れ鎌倉殿の耳に入る。


そうしたならばどんな罪に問われるか分からない。



「それに、俺はもう十分なんだ。」



九郎は自分の手をそっと握った。


数日前に牢に訪れてくれた望美。


格子越しに繋いだ手には今も、温もりが残っている。


暖かく、優しいお前が、傍に居てくれるかのようだ。



「・・・・あい、分かりました。」



御家人は苦渋の表情を浮かべながらその場を立ち去り、処刑の準備を始めた。



本来ならば、辞世の句でも詠むんだろうが、俺にはそんな教養は無いからな。


フッ、と笑みを零し九郎は空を見上げた。



透き通るような青空。



季節は秋だというのに澄み切った空は熊野で見た青空のように眩しい。



熊野の旅は、とても楽しかったな。



最期の時というのはやはり、色々な事を思い出してしまうようだ。


共に戦った大切な仲間達の事も。


九郎はまた、目を閉じる。




将臣。

お前とは同じ青龍同士だというのに、なかなか共に居る時間が無かったな。

良く分からない言葉で話したり面白い奴だった。

だが、大事な何かを背負っているようだったな。

お前とはもっと話をしたかった。




弁慶。

お前は昔から変わらないな。

俺は、お前ほど熱い思いを抱いている男を見たことが無い。

穏やかそうにはしているが、根は頑固で意地っ張りだ。

けれど、俺はそんなお前も悪くないと思っている。

俺の大事な親友だ。




ヒノエ。

最初は何を考えているか分からない、いい加減な奴だと思っていたが、違ったな。

誰よりも、お前は皆の事を考えている。

大切に思っている。

そんなのは微塵も感じさせないがな。

お前のお陰で多くの者たちが救われたと思う。




譲。

お前の弓の才を学んでおきたかったな。

頭も良く、俺には見習うべき所がいっぱいあった。

何処か、自分を卑下した所もあるが、

お前は自分が思ってるほど弱い奴じゃない。

早く、その事に気付けよ。




景時。

どんな苦しい時も、お前のお陰で笑う事が出来た。

お前は、本当に凄い奴だ。

兄上に取り立てられる理由も良く分かる。

これからは俺の代わりに兄上の為、戦ってくれ。

頼んだぞ。




敦盛。

平家の公達であるが故、失礼な態度を向けてすまなかったな。

お前は辛かったはずだ。

それでも自分の決めた道を迷うこと無く歩める強さ。

俺は、そんなお前が羨ましかった。

きっと、その辛さにも終わりが来るはずだ。

頑張れよ。




先生。

俺が、こうして生きてこられたのも先生のお陰です。

この感謝は言い表せぬほど。

俺は不肖の弟子でしたが、先生に出会えた事を誇りに思っています。

どうぞ、これからもお元気で。




朔殿。

女性の身でありながら、戦に巻き込んでしまったこと。

本当に申し訳ないと思っている。

だが。貴女のお陰で救われた者も多かった。

感謝している。




白龍。

お前が神など、言われなければ気付かないが。

いつだって一生懸命だったな。

神であるお前に願うならば。

どうか。兄上の築く世を見守ってくれ。





「九郎殿。ご準備はよろしいでしょうか?」



処刑の為の準備を整えた御家人が九郎の背後に立った。


九郎は「あぁ。」と頷く。


刀を反す音の後にゆっくりと持ち上げられたのが分かった。



――――――望美。



口には出さずに呼んだ名前。



それは愛しい女性の名。



お前に出会えて、本当に良かった。



楽しかった。



幸せだった。



そして・・・・・・。


九郎はもう一度、空を見上げた。


柔らかな微笑みを零しながら。




「愛している・・・・・。」




鈍い音と共に赤い飛沫が散り、土を真紅に染めあげた。


空は晴天。


望美達が『九郎義経処刑』の一報を聞くのはこの数刻後である。



   
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