乱暴に頭を撫でる指先











それを、特に意識したことなんてない。

ただ、当たり前のようにしてくれてた行為。

気付いた時には自然と、その手は私の頭を撫でてくれていて。

それを心地いいと、特別なモノだと、再認識することすらしなかった。






「将臣くん!!」



見慣れた後姿に声をかける。

振り返った姿は離れ離れになったあの時よりも大人びていた。



『3年』



将臣は20を越えていて、一緒にはしゃいで遊んでいたあの頃とは大分違う。

離れていた時間が、自分の知らない時間があることが望美には不自然に思えた。



「しっかし、お前達変わんねぇなぁ。」



それでも、そう笑って言う将臣の声だけはあの頃と何一つ変わらなくて、望美は嬉しさで笑顔が滲む。

一緒に居れるのは熊野を発つまで。

そんな限定された時間でも、共に居られる事が望美には喜ばしい。

無意識に、将臣の近くに身を置くことが多くなっていた。



「前から思ってたけど、将臣君って、サバイバルとか平気そうだよね。」

「そうか?」



褒めているんだか良くわからない言葉に将臣は笑いを零す。



「だって、一人でこんな世界に飛ばされたら、私は生きてける自信ないもん。」



異世界に来たとき、望美は一人じゃなかった。

幼馴染の譲も、自分の対である朔も、加護を与えてくれる白龍も。

自分には多くの仲間が居たから。

けれど、たった一人で異世界に飛ばされた将臣。



心配で、不安で。



望美の瞳がそっと、悲しみを帯びる。

そんな望美に、将臣は意外にもクスリと笑った。



「いやいや。俺よりもお前の方がサバイバル向きだって。」

「・・・・・・は?」



予想外の反応に望美は目を丸くする。



「だってよ。ガキの頃、拾い食いしても腹下さなかったのお前だけだったろ?」



と、将臣は子供の頃の思い出を思い起こし、プッと、噴出した。

望美はみるみる、顔を赤くする。



「なっ!!だって、あれは将臣くんが欲張っていっぱい食べたからじゃない!!」

「他にも、変なキノコ拾ってきて食べちまったし。」

「後で、調べたけど何とも無いキノコだったもん!」

「風邪が大流行したときもクラスで唯一風邪引かなかったのはお前だけだったろ?」

「ちゃんと、うがい・手洗いしてたから!」

「山を探検した時だって、お前だけほぼ無傷で帰ってきたし。」

「日頃の行いがイイの!」

「それから・・・・・・。」



将臣は尚も続けようとする。

望美はプゥっと、白い頬を膨らませ、将臣を無視して大またで歩き出した。



「おいおい。何怒ってんだ〜?」



見慣れた脹れっ面に将臣は動揺一つしない。

その理由が自分だと判っているくせに面白そうに望美に尋ねる。



「将臣くんがそんなことばっかり言うから!」

「なんだよ。全部事実じゃねぇか。」

「そ、そうだけどっ!」



否定出来ない事実のため、望美は上手く言い返せない。

抗議のしようも無くて、仕方なくさっきよりも頬を膨らませてそっぽを向いた。

そんな望美の姿も見慣れたモノ。

将臣はケラケラと愉快気に笑って、望美の頭に手を置いた。



「まぁ。何が言いたいかっていうとだな。」



そう切り出す将臣を望美はチラリと見上げる。

すると、柔らかな笑顔と視線が望美の瞳に写った。



「俺はこの通り元気だってコト。」

「??・・・・・うん。」

「だからさ。」



  ―――――そんな悲しい顔するなよ。



望美の頭に置かれた将臣の手がポンポンと軽く叩いてくる。

そのリズムとぬくもりが、余りに久しぶりで望美は思わずボーッと将臣を見つめてしまった。

が、突如。

将臣はその手を乱暴に揺らし望美の髪をグシャグシャにかき回した。

忽ち、望美は悲鳴のような声を上げる。



「ちょっと!!何すんの!!??」

「ハハハ。スキンシップ、スキンシップ♪」



望美の頭は鳥の巣のように変化してしまった。

更にムッツリとした顔になった望美はそんな頭を直しながら将臣に苦情を呟く。



「折角、ちゃんとセットしといたのに。」



そんな苦情を受けても、「似合ってるぜ?」と将臣は軽口をたたくだけ。



「もうっ!」



怒ったような声を上げたまま、望美はふと、髪を直す手が止まる。

幼い頃から繰り替えされてきた行為。

それは当たり前のように、極自然と無遠慮にされてきた仕草。

なのに。



今、どうしてこんなにも鼓動が忙しないのだろう?



望美はそっと、自分の胸に手を当ててみた。



『どうして?』と、己に問うように。


けれど、応えは無いまま。

その代わり、もう一度暖かい手が望美の頭上に降ってきた。



「ったく。トロくせぇなぁ〜。」



そう言いながら、将臣はたった今、自分が作った鳥の巣を解いていく。

かき回した時より、ほんの少しだけ優しく。



「・・・・・・自分がやったくせに。」



自分でやった悪戯の後始末をする子供のようで、望美はクスッと笑いが零れる。

その笑いを、見捕らえた将臣は解く手を止め、

もう一度。

さっきと同じ仕草で望美の髪を掻き回した。



「きゃぁぁぁぁ!!何するの!?」



望美は素っ頓狂に叫ぶ。



「お〜。やっぱ、そっちが似合ってるって。」



悪びれもせず、将臣はそうからかい口調で言う。



「っ〜〜〜!もう頭に来た!!」



乱れた髪を直すのも忘れて、望美は早々に自分から距離を置いた将臣を追いかけだした。



「っ!?やべぇ!」



望美の鬼のような形相に流石の将臣もギョッとして逃げだす。



「ちょっと!待ちなさいよ!!」

「断る!」



そんな追いかけっこは暫し続く。

望美は先程の忙しなかった鼓動の事はすっかり、忘れてしまった。



あの鼓動の応え。

それこそが、とてもシンプルで簡単な唯一の答え。





 〜あとがき〜
いい年こいて、追いかけっことか。(笑)
こんなカップルも微笑ましいかと。



   
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