ゼロ距離の余裕のない君
その日は雨が降っていた。
望美が縁側を歩いて居ると、同じ縁側に腰を下ろしている人物に目が行く。
「敦盛さん?」
「?神子か。」
敦盛は望美を見上げた。
「何してるんですか?敦盛さん。」
「いや。何も。ただ・・・・・。」
言いながら、敦盛は望美から庭へ視線を移す。
その先を見て敦盛は笑んだように見えた。
望美もそれに倣って庭へ視線を流して見る。
庭には丁寧にならんだ花や木々、小さな池や石。
その全てに雨がポタポタと落ちて小さな音を奏でている。
一つの音達は集まって、バラバラだった音は一つの曲のように聴こえて。
冷たい無機質な音、けれど何処か愉快気で。
たまに鳴く蛙の声もそれを感じさせた。
「すごいですね。敦盛さん。」
望美は驚嘆するように言い、彼の横に座った。
「雨の日をこうして楽しむなんて、初めてです!」
「そうか。神子が楽しんでくれるなら幸いだ。」
敦盛は照れたように微笑んだ。
「雨の日って、意外と静かですよね。」
「そうだな。皆、邸の中に篭ってしまうからな。」
「あ。でも。私は傘を持って外で遊んでましたけど。」
望美は思い出したようにクスクス笑う。
「傘に落ちてくる雨の音とか楽しくってワザと雨どいの下に行ったり、水溜りの中に入って遊んだり。泥んこになっちゃってお母さんに怒られたんですよね〜。」
そう、楽しそうに語る望美の横で敦盛も笑いを零しながら言った。
「何処の世界でも子供のすることは同じだな。」
「え?」
「私も、同じような遊びをして、母に怒られたものだ。」
懐かしむように、敦盛は言う。
「わざわざ、雨の日に虫探しをしたり、探検をしたり。着物を汚して帰って来ると邸の者は皆大慌てで。」
「フフッ。敦盛さんも、そんな事するんですね。」
「あぁ。なんせ、ヒノエと一緒に遊んでいたからな。」
「あ。何か、納得できました。」
二人は顔を見合わせ、笑った。
と、その時。
ゴロゴロ・・・・・・。という音が鳴り、即座に大きな雷の音が響き亘った。
「きゃぁぁぁぁ!!」
望美は飛び上がり、思わず敦盛の腕にしがみ付いてしまう。
「み、神子!?大丈夫か?」
「は、はいっ・・・・!」
「・・・・・雷が怖いのか?」
「い、いえ。雷が怖い訳ではなくって・・・・・。突然大きな音がしたんでビックリしたんです。」
「そうか。確かに大きな音だったからな。」
望美は、敦盛の腕にしがみ付いたまま動かない。
敦盛は不思議そうに顔を屈めて、望美を見た。
「神子?」
「あ・・・・・。その・・・・・・。」
望美は下を向いたまま、恥ずかしそうに口をモゴモゴとさせている。
「どうしたんだ?」
「わ、笑わないで下さいね?」
「?ああ。」
「その・・・・・。こ、腰が抜けちゃって・・・・・・。」
余りに突然聞こえた爆音に望美は驚き、その衝撃で腰が抜け身動きできない状態になってしまったのだ。
いい年をして、余りにみっともない姿に望美は恥ずかしさで一杯になる。
そんな望美を敦盛が包むように抱きしめた。
そして、優しく、丁寧に望美の頭を慈しむかのように撫でる。
「神子は可愛らしい人だな。」
少し笑いながら敦盛はそう囁く。
「え?」
その言葉の意味に興味を持って、望美が顔を上げたとき。
もう一度、大きな雷が鳴り響いた。
「きゃぁぁぁ!!!」
またしても、望美は驚き敦盛にしがみ付く。
それを敦盛は優しく抱いた。
大切な物を守るかのように。
優しく、しっかりと。
「大丈夫だ。神子。」
敦盛の囁きに促されるように望美は顔を上げた。
薄紫色の視線が望美を優しく見つめている。
その瞳が、望美の心を落ち着かせてくれた。
そして、頭を撫でながら敦盛が言う。
「貴女を守るから。」
少しハニカミながらもしっかりとした声で。
そう言った敦盛に望美の胸がトクンと、一つ鳴る。
それと同時に、自分の頬が染まるのも感じた。
儚げで、壊れ物のようだと思っていたのは思い過ごしなんだと、望美は反省する。
本当は、強くて優しい。
男らしい人なのだと。
それに気付くと、鼓動は忙しなく動き出す。
敦盛はずっと望美の髪を撫でてくれていた。
柔らかな手つきは変わる事は無い。
愛しさを含んだ掌が望美の小さな恋心を加速させて行った。
〜あとがき〜
こんな余裕なあっつんはあり得ない(失礼!)
でも、たまにはいいんじゃない?みたいな。
機会があったら、チビッコ時代のあっつんとヒノエの話も書いてみたいなぁ。
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