今になって甘い言葉










「九郎さん♪」



やけに浮いた声で呼ぶ望美に九郎は振り返った。

少し鼻歌交じりに望美は近づき、九郎の目の前に座る。

気味が悪いくらいの上機嫌に九郎は眉を寄せた。



「な、なんだ?」



警戒心を抱きながら九郎は尋ねる。

平静を装う為に望美が入れてくれたお茶を啜った。

すると。



「九郎さん。好きです☆」



ブッ!!と、九郎は思わずお茶を吹いた。



「あぁぁ!!何やってんですか九郎さん!?」



望美はビックリして、手近にあった布巾で床を拭く。

九郎は吹いた後、器官にでも詰まったのだろうか。

ゴホゴホと咳き込んだ。

少し、呼吸が整ってきてから九郎は声を上げた。



「な、何をいきなり言い出すんだ!?」



九郎の顔は真っ赤。

それが、望美の台詞に由る物なのか、お茶に咽てしまった為なのかは判らないが。

望美はそんな九郎を首を傾げて見つめる。



「何って。言葉の通りですよ?」

「意味を聞いてるんじゃない!!何で突然そんなことを言い出すんだ!?」

「え?別に理由なんて・・・・・。強いて言えば、そう思ったからですケド?」



何の打算も思惑も無い笑顔で。



「それに、誰かさんはナカナカ言ってくれないんで。これはもう、自分が言うしかないかなぁ〜とか思ったりもしたんで。」



少しの抗議を滲ませて言う。

『誰かさん』の所在に心当たりがある九郎はグッと言葉を詰まらせたが、それでも九郎なりの意見を返す。



「そ、そんな事は言わずとも判るだろう?」



あまり多くを語るのは好きじゃない。

ましてや、歯の浮いてしまいそうな愛の言葉など。

自分が口にする違和感も自覚しているし。

何よりも、面映くてしようがない。

そんな九郎の思いを悟りながら、望美はクスリと一つ笑った。



「判ってますよ。」



傍に居てくれる時。

手を繋いでくれる時。

優しく抱きしめてくれる時。


全てに精一杯の愛しさを込めてくれている事。


ちゃんと、知っている。



「だから、そんな九郎さんが大好きなんです。」



初めて思いを告げたときのような照れた笑顔を望美は見せた。

その笑顔に、言葉に。

九郎も初めて望美を愛しいと思った時と同じような胸の高鳴りを覚える。



この娘が好きなのだと、気付かされた時のように。



「望美。」



不意に九郎が呼びかける。



「?何ですか?九郎さん。」



真正面に座っている望美を九郎は、優しく、ぎゅぅっと抱きしめた。

そして、耳の傍に顔を寄せて。

ほんの少し、小さな、小さな声で。

言葉を紡ぐ。



「いつも。お前を愛しいと思っている。」



言葉にした途端、不思議と口付けたくなった。

普段なら言わない言葉の力がそう、思わせるのか。

静かに体を離して望美の顔を見る。

と。



「望美?」



望美の顔はまるで鳩が豆鉄砲をくらったかのように。

目は大きく見開かれ、口もポカンと開けっ放し。

表情も望美だけ時間が止まってしまったようにピクリともしない。

その顔が、何だか可笑しくて。

九郎はプッと噴出す。



「そんなに、驚くほど似合ってなかったか?」



自分と口にした言葉との違和感は己がよく知ってる。

だが、望美は九郎の自嘲するかのような台詞に慌てて首を振った。



「そ、そんな事無いです!!そりゃぁ。似合いそうにないなぁ〜って思ったこともありましたけど・・・・・。」



望美の頬がみるみる朱に染まった。

チラリと、九郎を見上げて。

九郎と同じくらい小さな声で言う。



「意外とカッコよくて・・・・・もっと、九郎さんを好きになってしまいそうです。」



そう告げてくれた望美に九郎は微笑んで。



「俺も、お前をもっと愛しいと思ってしまった。」



自分も、今の素直な思いを告げた。


そして、どちらからという訳でもなく、静かに口付けを交わす。



言葉で告げた以上の思いを。

互いに、寄せ合うように。

感じ合えるように。






 〜あとがき〜
九郎さんって、意外と甘い台詞が合ったり。
しかも、無自覚で言って望美ちゃんを真っ赤にしてくれたりするんではないかなぁ〜(笑)





   
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