瞳そらした困り顔
「あれ?」
冬本番になり、寒さも増してきたというのに縁側に座るリズヴァーンがそこに居た。
望美は不思議そうに首を傾げながら近づいていく。
そうっと、後から覗き込むと、リズヴァーンは目を閉じていた。
よくよく見てみる。
すると、微かではあるが小さな寝息が聞こえてきた。
『もしかして・・・・・。先生、居眠り?』
あまりにも似つかわしくないその行為に望美は目を丸くする。
しかも、望美は気配を消しているわけでもないのに、リズヴァーンは気付いていない。
『もしかして、疲れてるのかな?』
また、顔を覗きこんで観察してみる。
リズヴァーンは顔をマスクで隠したままだったので、表情は良く判らなかったが、眉間に深い皺が刻まれている。
何か悩み事?それとも心配事?
何を問うても、いつだって「問題ない。」と返されてしまうから知ることは難しいけれど、
それでも。
『力になりたいから。』
例え、微々たる力しかなくても好きな人の為になら頑張れるから。
少しくらいは、頼りにして欲しい。
『そう願うのは我が侭かな?』
望美はそんな自分を笑う。
笑いながら、そっと。
リズヴァーンのマスクの上から頬へ小さくキスをした。
寝ている間の少しでも、自分の思いが届くことを祈りながら。
その微かな温もりに気付いて、リズヴァーンがハッと、目を覚ました。
望美の唇は頬に触れたまま。
「っ!・・・・・神子っ!?」
目覚めた直後の、ありえない状況にリズヴァーンは思わず狼狽してしまう。
それに気付いて、望美も慌てて顔を離した。
「せ、先生!起こしちゃいましたか!?」
目と目が合った途端、リズヴァーンが困ったように顔を逸らす。
望美は申し訳無く思い、謝罪を口にした。
「・・・・失礼な事をして・・・・・・ゴメンなさい。」
いくらマスクの上からだったとしても、寝ている合間にキスをしてしまったのは事実で。
もしかしたら、先生は自分を、そういう対象として見ていなかったなら、失礼極まりない。
望美はリズヴァーンからの叱責の言葉を待った。
「・・・・・・神子。顔を上げなさい。」
言われたとおり望美は顔を上げる。
リズヴァーンはまだ、顔を逸らしたままだ。
マスクの上からでは表情を読み取れない。
けれど、少しだけ見える頬の部分が少し色づいているような気がした。
「先生?」
望美は二の句を次がないリズヴァーンに呼びかけながら、顔を覗き見る。
もう一度、目が合った。
けれど、リズヴァーンはまた目を逸らす。
その瞳は困った色とは違う色が見えた。
嬉しいような。それでいて、気恥ずかしいような。
なんとも言い難い瞳の色。
しかし、それが何なのか、理解できない望美は。
「先生。イヤでしたよね。ゴメンなさい。」
謝罪を繰り返す。
が。
望美の顔が、悲しげに変わった途端。
「嫌ではない・・・・・・。」
望美の言葉をリズヴァーンが否定する。
その否定の台詞に望美は頭を捻った。
リズヴァーンはまだ顔を逸らしたまま。
「お前が。謝罪をすることは無い。むしろ・・・・・。」
―――――喜ばしい。
「??先生?」
最後の台詞は、望美の耳には届かなかった。
けれど、嫌がられた訳でないのなら。
望美はそれで、十分嬉しい。
「問題ないって、事で良いんですか?」
お決まりの、あの言葉で聞いてみる。
すると、リズヴァーンはゆっくりと頷いた。
「ああ。問題ない。」
それを聞くと、望美はみるみる笑顔を覗かせる。
そして。
リズヴァーンにくっつくように横に座った。
これには、リズヴァーンももう一度驚く。
「神子!?」
「問題ありますか?」
探るように、茶目っ気のある声がそう尋ねる。
リズヴァーンはコホンと、一つ咳払いをすると、
「・・・・問題ない。」
そうとだけ言うと顔を逸らしたまま、けれど、望美の温もりを感じながら。
リズヴァーンはマスクの下で、そっと嬉しそうな笑みを零した。
〜あとがき〜
動揺する先生が書きたかったんです。
ただ、それだけ。
ご感想などはこちらからお願いします。
その際は創作のタイトルを入れて下さいね。