お正月のススメ (お餅つき)
正月中であっても商店街の賑わいは変わらない。
初売りやセール等を催せば人は自ずと集まりいつもの倍は活気付く。
望美とリズヴァーンもこの商店街へやってきた。
と、言ってもセール品目的ではなく、譲にお使いを頼まれてやってきたのだった。
「えっと。頼まれたものはコレで全部ですかね。」
「あぁ。」
リズヴァーンが持ってくれている袋の中身を確認して、帰路につこうとした時。
威勢のいい掛け声が二人の耳に聞こえた。
その声は人だかりの中心から漏れている。
「何ですかね??」
「気になるのなら、見ていこう。」
「はい。」
人だかりの後ろからひょっこりと覗くと、二人の男性が真ん中で杵と臼を使った餅つきをしていた。
リズミカルな掛け声を掛けながら息もピッタリな餅つきに観衆は楽しそうにそれを眺めている。
「餅つきかぁ。お正月の風物詩ですよね。」
「あぁ。そうだな。」
望美も観衆に混じって楽しそうに見つめた。
と。
ある程度餅がつきあがった所で杵を持っていた男性がその手を止めて観衆に話しかけた。
「それでは、誰か搗いてみませんか?」
その声に数人が手を上げた。
ふと、リズヴァーンが隣を見ると、あろう事か望美が目を輝かせながら手を上げている。
「・・・・・神子・・・・・。」
リズヴァーンが止めようとしたが時既に遅く。
女性で手を上げたのは望美だけで、それに興味をそそられたのか杵を持っていた男性が望美に向かって微笑んだ。
「お嬢さん、元気がいいね!それじゃあ、どうぞ!!」
指名されて望美は嬉しそうに笑う。
そして、その笑顔をリズヴァーンに向け。
「先生!見ててください。立派にお餅ついてきますから。」
ガッツポーズを見せた。
こうなっては彼に望美を止める術は無く、小さく微笑んでエールを送る。
望美はその微笑みに笑って返すと、腕まくりをして杵の柄の部分を持った。
そうして持ち上げようとすると、杵は望美の予想を遥かに凌ぐ重さで中々担ぎ上げることが出来ない。
それでも、顔を真っ赤にしながら何とか持ち上げると臼の中の餅目掛けて杵を振り下ろした。
ぺったん!!
可愛らしい音を立てて餅を搗くことが出来た。
その感激に望美はまた目を輝かせる。
観衆もそんな望美が愛らしくて目を細めて笑い、拍手を送った。
望美は照れたようにリズヴァーンを見ると、彼も優しい笑顔で拍手をしてくれている。
それがまた、嬉しかった。
「お嬢さん、ありがとう。それじゃあ次は・・・・・そこの外人さん!!」
望美が杵を返すと、今度はリズヴァーンを指名した。
これには流石のリズヴァーンも目を開いて驚く。
恐らく、金髪碧眼の彼を見て異文化コミュニケーションのつもりで声をかけてくれたのであろう。
断ろうか思案していると、満足そうな笑顔の望美がリズヴァーンの手を引いた。
「さ!先生もどうぞ。」
「・・・・・・うむ。」
進められるままに杵を手にすると、リズヴァーンは軽々とその杵を持った。
そして、反し手の男性を見るとその杵を構えた。
途端、反し手の男性は、ハッとする。
長年餅つきを様々な場所でやってきた経験と感が言っている。
この外人さん――――― 出来る!!
「はぁっ!!」
気合の入った掛け声と共にリズヴァーンは杵を振り下ろした。
ぺったん!!!
その搗いた音もさることながらフォームもプロとさして変わらない姿に反し手も瞬時に餅を反す。
そして、彼らは本日初対面だと言うのにもかかわらず、
絶妙のタイミングで素早く餅を搗く。
観衆からは「おぉ!!!!」と驚きと感激からどよめきが起こった。
望美もポカンと口を開けてリズヴァーンに見入ってしまう。
そして。
「・・・・・・これぐらいで良いだろう。」
リズヴァーンは搗く手を止めた。
仕上がった餅は見事なツヤで日の光により輝いているように見える。
その仕上がりに大喝采が上がった。
そして、餅つきを主催していた二人は涙ぐみながらリズヴァーンに握手を求めた。
「ありがとうございます!俺達、こんな立派な餅ついたの初めてです!!」
「俺達も、貴方のように餅を搗けるように修行します!!」
深々と頭を下げる彼らの握手にリズヴァーンは応える。
「何事も修行の積み重ねた。これからもがんばりなさい。」
「はい!!」
「ありがとうございます!!」
もう一度彼らは頭を下げた。
望美とリズヴァーンの手には大量の餅と、リズヴァーンの餅つきに感動した商店街の人々がくれた
品物でイッパイになっていた。
「大荷物になっちゃいましたね。」
望美が笑いながら言うとリズヴァーンも笑った。
「そうだな。」
「でも。先生があんなにお餅つきが上手だなんて知りませんでした。」
「・・・・・そうか。」
「はい。今日はとっても楽しかったです。」
望美は、リズヴァーンの餅を搗く姿を思い出して、楽しそうに帰路に着いた。

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