お正月のススメ (福笑い)











「神子!神子!これは何?」



リビングでくつろぐ望美の元に、目を輝かせた白龍が飛んで来た。

何事かと見れば、白龍は何か新聞の広告のような紙束を持っている。

そして、興味津々にそれを望美に手渡した。

開いてみればそれは、新聞に折り込まれていたであろう『福笑いセット』。

オーソドックスな『おたふく』と呼ばれる顔の福笑いだ。

望美の説明を今か今かと、心待ちにしている白龍が可愛らしくて望美はクスリと微笑みながら教えてあげる。



「白龍。これはね。『福笑い』っていうんだよ。」

「『福笑い』??」

「うん。この何も書いてない輪郭だけの顔の上に、目とか鼻とかを置いていくの。目隠しをして。」

「目隠しをして、出来るの?」

「ううん。もちろん変な顔になるよ。でも、それで笑う遊びなんだよ。」



望美の説明に益々興味をそそられたのか、白龍は目を輝かせながら望美の手に渡った

福笑いを見つめた。



「やってみる?白龍?」

「うん!!」



満開の笑顔で白龍は頷いた。



「よ〜し。じゃあ、このパーツを分けなきゃ。」



望美はハサミを取り出してくると、顔のパーツを丁寧に切り取っていった。

と、そこへ。



「何だか、楽しそうですね。」



弁慶が、声をかけてきた。

リビングの外まで聞こえる楽しげな二人の声に招かれたようだ。



「弁慶さん!今、福笑いをする所なんです。一緒にどうですか??」

「『福笑い』?」

「あれ?もしかして弁慶さんも初めてですか?」

「ええ。初めてみました。」

「じゃあ、私が先輩ですね♪」

「ふふ。それではご教授賜ります。先輩。」

「任せてください。」



パーツを切り終え、目隠し用のタオルを用意して準備は整った。



「えっと。それじゃあ、まずは私がお手本見せますね。」



望美は張り切ってタオルで目隠しをする。

そうして、手探りで顔のパーツとそれを置く顔の位置を確認する。

最初に手にとったのは目だと思われるパーツ。

己の勘に従って次々とパーツを置いて行く。

最後に口と思われるパーツを置いて、望美は目隠しを取った。

かなり上手く置けた自信があった。



「どうですか?中々上手に・・・・・・。」



感想を求めて弁慶と白龍に振り向くと、微動だにしない白龍と顔を背けた弁慶が居た。

白龍は、完成した福笑いの顔をまじまじと凝視している。

弁慶は、コメントも何も無くただただ肩を震わせて一向にこちらを向いてくれない。



「あ、あの・・・・・。弁慶さん?」



弁慶の顔を伺い見ようとした望美に白龍は真剣な声で望美に尋ねた。



「神子・・・・・・・。どうして鼻が口になってるの?」

「えっ!?えぇぇぇ??」



白龍に尋ねられて今しがた出来た福笑いを見ると、改心の出来だと思っていた福笑いは

垂れ目がひっくり返って釣り目に。

しかも位置はとんでもなくアンバランスな場所に。

何故か鼻と口の場所が逆になり、口は縦になって、あり得ないほど可笑しな顔になっていた。

その出来に望美自身が驚いていると。



「す、すいません・・・・・・望美さん・・・・・・。クッ・・・・・・・ハハハハハハ!!!!」



弁慶が腹を抱えて笑い出した。

これには、望美と白龍も驚いた。

普段の物静かな弁慶では想像出来ないほど、涙目になりながら笑っている。

笑いをこらえようと必死で口を詰むんでも、堪えきれずに笑い声が零れて。

何とも困ったように眉を寄せて笑っていた。

その笑顔に心がほわっと温かくなるような感じがして、望美も一緒に笑顔になる。

すると、白龍も笑顔になった。



「すごいね。神子。この部屋の気が温かく満ちている。二人の笑顔が福を招いたみたいだ。」

「ホント?じゃあ、他の皆も誘ってみよっか?」

「ええ。いい考えですね。」



望美の発案に優しく頷くと、タイミングよくリビングへ数人の足音が聞こえた。

暖かな空気に誘われたかのように。



   
  ご感想などはこちらからお願いします。
  その際は創作のタイトルを入れて下さいね。