乙女心・3











「じゃ〜ん!見て見て!望美ちゃん!」



前回の事件(乙女心・2参照)から数日経った梶原邸で、景時が自慢げに望美と朔の下へやって来た。

小脇に何かを抱え、ニコニコ笑う景時。

何か良いことでもあったのだろうか?

理由を知らないのに、望美はつられて微笑み朔は不審そうに眉を寄せた。



「一体、どうしたんです?兄上。」

「あ。うん。実はね・・・・・。」



そう言いながら景時は脇に抱えた包みを開いた。

四角い形をして、少々分厚い重量感のあるモノが出てくる。

表面の上部にはユラユラ動く針。

そして、針の下には細かい等間隔の線と漢数字の羅列。



「・・・・・景時さん。これって?」



望美の問いに、景時は大きく咳払いをしてその正体を明かした。



「おっほん!これはね、将臣くんと譲くんに聞いて作った『体重計』というものなんだ。望美ちゃんも知ってるでしょ?」

「え?はい。」



その名称を聞けば頷ける。

コレは確かに、現代の世界で慣れ親しんだ体重計によく似たものだった。



「この前さ。その・・・・・ヒノエくんの『うえすと』とかで望美ちゃんが気に病んでいたじゃない?」



あの騒動を思い起こして望美は照れ笑う。



「望美ちゃんは全っ然太ってないって事をどうにか証明したくて!それで将臣くん達から聞いたんだ。」



『体重がわかんねぇから気にするんじゃねぇか?』

『そうですね。目に見えたなら安心するでしょう。』



「で、その仕組みを教えてもらって作ってみたんだ!」



そう、事の顛末を教えてくれた景時に望美は顔を綻ばせた。



「景時さんっ!私のために、作ってくれたなんて・・・・・。嬉しいです。ありがとうございます。」

「いや。俺が発明したわけじゃないからね。教えてもらって作ったものだから。」

「でも!作り方を聞いただけで作れるなんてスゴイです!」



そう、褒められて景時は嬉しそうに、照れくさそうに頬を掻いた。



「さぁ!それじゃあ、乗ってみて!」

「はい!ありがとうございます!」



望美はそうっと、『体重計』に乗った。

不安と緊張。そして少しの期待を込めて。



カシャ。



望美が乗ると『体重計』の針が動いた。

ゴクリと、生唾を飲み込んで数字に視線を落とす。



「えっと・・・・・なんて書いてあるか読めないんですけど。」

「ん?どれどれ?え〜っと・・・・・五拾・・・・・。」



景時がその数字を読み上げた途端。



「望美?」



朔は望美の異変に気付く。

『体重計』から降りた望美の顔は晴れやかさとは無縁な石のように固まった表情。

朔の呼びかけにも答えない。



「え?望美ちゃん!?」



景時も驚いて顔を覗き込む。



「・・・・・・て・・・・た。」

「え?」

「・・・・・・増えて・・・・・た。」



呆然と望美が呟いた。

瞬間。





ごしゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!





突如響く破壊音。

景時と望美はそれに驚いて顔を上げた。

と、そこには。

残骸と化した『体重計』と笑顔の朔。

景時はたちまち、叫びながら『体重計』に駆け寄った。



「う、うわぁぁぁぁ!!!」

「まぁ、この程度で壊れるなんて。兄上の発明も大したこと無いようですわね。」

「えぇぇぇぇぇ!?ちょっ!朔、これ!?」

「ごめんなさいね。望美。どうやら欠陥品だったようだわ。あんな数字気にしないで。」

「え?そうだったの?」

「そうでしょう?兄上?」

「え!?でも、昨日、将臣くん達と確認したときはそんな事・・・・・・・。」

「・・・・・・兄上?(ニッコリ)」



有無を言わせないその冷笑は、景時から反論の言葉を奪う。



「・・・・・・ご、ごめん・・・・ね。また、失敗だったみたい・・・・・・。」



景時は目を泳がせながら言った。



「全く、兄上ときたら。ごめんなさいね、望美。」

「え!?そ、そんな事ないよ。気にしないで。」



望美は朔の謝罪に首を振った。



「よかった〜。体重が増えたと思ってショック受けちゃった。」

「さ。気分転換にお散歩でもしましょう。この前美味しい甘味屋さんを見つけたの。」

「わぁ。行こう、行こう♪」



上機嫌になった望美と朔は出かけて行き、後にはちょっぴり涙ぐむ景時が残された。





   
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