王子様とお姫様
秋晴れの空は明るく、寒さを打ち消してしまうほどの陽が差していた。
「気持ちいいなぁ〜。」
なだらかな山道を歩きながら、千尋は大きく伸びをする。
「絶好のハイキング日和だよね。那岐。」
上機嫌な千尋は後ろからついてくる那岐にそう振るが、那岐は大きく欠伸を返すだけ。
眠そうに、そして非常に面倒臭そうに歩いて来る。
けれど、千尋はそんないつもの那岐の態度に呆れるでもなくウキウキと歩んでいった。
久しぶりのお休みの日。
好きな人とこうして出かける。
何気ないそんな出来事が心底嬉しかった。
足取りは軽く、思わずスキップしてしまうほど。
ところが。
「きゃあ!!!」
千尋は地面から突き出ていた木の根に足を引っ掛けた。
そしてそのままバランスを崩して前に転む。
「千尋っ!!」
那岐は慌てて駆け寄ってきた。
「痛たたた・・・・。」
「何やってんだよ。全く・・・・・。」
「ご、ごめん。」
「・・・・・いいから、足見せて。」
那岐は千尋の足を見た。
優しく、少し力を込めて千尋の足を刺激する。
そうして、足首を触った途端。
「痛いっ!!!」
千尋が小さく悲鳴を上げた。
「捻ったな・・・・。立てそう?」
「ん・・・・・痛っ!」
何とか身を起こそうとするも、捻った足首から駆ける激痛に千尋は足へ力を入れる事が出来ない。
「ごめん、那岐。ちょっと無理・・・・・。」
そう告げられ、那岐は盛大な溜息を吐いた。
「全く・・・・・もう、今日は帰るよ。」
「うん。そうだね。」
千尋は見て取れる程、ガックリ肩を落とした。
久しぶりの休みは、那岐と色づいた紅葉を楽しんで、二人きりの時間を楽しみたかったのに。
自分の不注意でそれが全て水の泡。
千尋は、己の不甲斐なさに落ち込む。
と、そんな時。
「え!?」
ふわりと、自分の体が浮いた。
その浮遊感に千尋は慌てる。
「あのさ。じっとしといてくれない?」
呆れ声が顔の近くで聞こえた。
「な、那岐っ!?」
「暴れられると重いんだけど。」
「だって!」
千尋は那岐に横抱きで抱えられていた。
いわゆる、『お姫様抱っこ』というもので。
「は、恥ずかしいじゃない。『お姫様抱っこ』なんて!」
千尋の顔を真っ赤にしての抗議を那岐は面白そうに口元を緩めて見つめた。
「いいんじゃない?千尋は一応『お姫様』なわけだし。」
そんな、からかい口調に千尋の顔が思わず緩んだ。
「それじゃあ、那岐は『王子様』?」
「全然、柄じゃないんだけど・・・・・。」
「そう?似合うと思うよ、那岐王子。」
千尋はクスクスと笑う。
「何笑ってんのさ。」
「だって・・・・・那岐の王子様スタイルを想像したら可笑しくって・・・・・。」
「どんな格好を想像したんだよ。」
「え?白馬に跨って、白いマントを翻して、王冠被って、カボチャパンツで・・・・・・。」
「そんな王子スタイルは絶対に嫌だ。」
「フフフッ。似合うよ。那岐。」
余りにも可笑しそうに笑うので、那岐は少しムッとする。
「・・・・・置いてくよ?」
「えっ!?王子様はそんな事しないんだよ!?」
子供地味た脅しに千尋はうろたえて落とされないように那岐にしがみついた。
「千尋はどんな王子を想像してんのさ。」
「う〜んと・・・・。白雪姫とかシンデレラとかに出てくるような・・・・・。」
優雅で華麗なおとぎ話の王子を想像する。
彼らは絶対に、『置いて行く』なんて脅し文句は天地がひっくり返ったって言いやしない。
ウットリと夢見る顔の千尋を那岐はちょっと面白くない顔で見た。
そんな作り物の王子なんかに、こんな顔をさせられるのが面白くない。
ふと、那岐の顔が千尋に寄った。
「ふぅ〜ん。じゃあ、王子のする事って・・・・・。」
近付くスピードを緩めないまま、那岐は千尋に唇を寄せた。
胸の奥がジンとするような柔らかなキス。
千尋は頬が蒸気するような感じがした。
そして、唇を離すと那岐はニッと意地悪そうに笑む。
「・・・・・・こういう事?」
「〜〜〜〜っ!!」
声が出ないまま赤くなる千尋。
そんな彼女が可愛くて、可愛くて仕方がない。
「それから・・・・・・。」
そう呟いて、今度は千尋の耳下へ顔を寄せた。
彼女の耳だけに届くように、小さく、はっきりと。
――――― 愛してる。
「どう?王子っぽく出来た?・・・・・・って、何顔そらしてんのさ。」
千尋は横抱きされながら懸命に那岐から顔を逸らしていた。
それは、これ以上ないくらい赤くなった顔を見られないため。
おとぎ話の王子よりも、段違いで格好よかったなんて悟られないため。
「こっち向きなよ。千尋。」
「む、無理っ!!」
今の那岐を見てしまったら、きっと心臓が張り裂けてしまう。
それくらい、千尋の鼓動は加速していた。
それを知ってか、那岐は可笑しそうに笑っていた。
可愛い恥ずかしがりのお姫様。
王子はもう一度キスをした。
〜あとがき〜
プリンス・那岐・・・・・。
ぬあぁぁぁ!!!出血多量で倒れるっ!!!
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