心からの幸せを
春の日差しは縁側に座る二人を暖かく包むように照り付けている。
数ヶ月に及ぶ長い航海を終えたヒノエと、それを健気に待ち続けた望美は寄り添うように座っていた。
手を絡め、呼吸のリズムが分かる程に互いの存在を感じあう。
ずっと、こうしていたい。
そう、切に願ってしまう。
「今度はいつまで居られるの?」
「さぁ。どうだろうね。」
船に乗り、交易をするのが熊野別当の職務であるが故ヒノエとこうして傍に居られる事は多くは無かった。
寂しさを感じない筈がない。
翳る望美の顔を掬い上げてヒノエは額同士をコツリと合わせた。
「それでも、出来うる限り。俺はお前の傍に居るよ。」
優しく微笑む瞳にはそれを真意と表す色を浮かべる。
望美の顔は一瞬で華開いた。
その表情の変化にヒノエも共に笑う。
同じ思いを胸に微笑み合える事が堪らなく嬉しい。
望美は胸イッパイに幸せを感受する。
「ねぇ。ヒノエくん。」
「うん?」
「ヒノエくんの幸せって何?」
脈絡の無い不意の質問にも係わらず、ヒノエは柔らかに微笑んだ。
「そうだな・・・・・。こうしてお前と一緒に居る時。
可愛いお前を見ている時。お前の優しい声を聞いてる時。・・・・・・お前を抱いている時。」
最後の台詞を最上に甘い声で告げると望美の顔は一気に赤くなる。
「も、もう!ヒノエくん、そういう事はっ!!!」
「ふふっ。恥ずかしい?でも、そんなお前を見ている時も幸せだよ。」
満面の笑顔のヒノエに、望美は唯々頬を染めるしかない。
少し口を尖らせて見せるのがせめてもの抵抗。
それがまた可笑しくて、可愛らしくて、ヒノエの笑みは一層深まる。
同時に愛しさが止め処なくこみ上げて来て、合わせていた額を離すと首を傾けて赤い唇にキスを落とした。
「こうしてお前と口付ける時も。あぁ。でも一番はやっぱり・・・・。」
少し顔を引き、ヒノエは赤い瞳でしっかりと望美を見つめる。
燃えるようなその瞳は望美の鼓動を早めた。
「・・・・・お前に愛を告げる時。かな。」
目を見開いて驚く望美の手の甲に口付けをして、上目遣いにヒノエは言う。
「愛してるよ、望美。」
最上の幸せをありがとう。
そう、心の奥底から幸せな微笑みで見つめるヒノエによって、望美は更に顔を赤くさせられた。
そして、同時に。
最愛の人に愛を告げられる時も幸せなのだと感じる。
「わ、私も。同じ気持ちだよ。」
――――― 愛してます。
消えてしまいそうな程小さな告白。
けれど、ヒノエには十分だったようで間髪入れずに望美の体を捕らえて抱いた。
そして、逃げる余裕も与えないまま深く、深く口付けをする。
恥ずかしがりながらも懸命に言った愛の言葉を飲み込むように。
顔を離せば眩暈を起こしかけた赤い望美の顔。
ヒノエはクスリと笑う。
「ふふっ。俺の姫君は恥ずかしがり屋さんだね。」
「う・・・・。だ、だって。」
「それじゃあ、恥ずかしがり屋のお姫様。その恥ずかしい気持ちが消えるように・・・・・。」
――――― もっと恥ずかしいことをしようか?
甘く求められて、応えて。
二人の唇が何度も触れ合った。
〜あとがき〜
久しぶりのヒノ望です。
てか、何をする気っ!?
皆様の脳内で妄想して下さい。

ご感想などはこちらからお願いします。
その際は創作のタイトルを入れて下さいね。