次の日。
町はお城からの御触れで盛り上がっていました。
『この靴に合う娘が王子の花嫁である。』
王子の家来達は舞踏会に招待した娘達の家を一軒一軒訪ねて行きました。
しかし、靴に合う娘は見つかりません。
最後に家来達は望美の家へやって来ました。
「え〜と・・・・・。『この靴を履けた者が王子の花嫁となる。』つーわけだから、お宅の娘さん呼んで来てくれよ。」
「お断りです。」
継母はニッコリ微笑みました。
「え!?いや、ちょっと困るよ〜。『町中の娘に履かせよ』って命令されてるんだからさぁ。」
「そうそう。靴履くくらい、いいじゃねぇか。」
「それに、形だけでも履いてみてよ。俺達にも一応、立場って物が・・・・・・。」
「君達の立場なんて知ったこっちゃないですね。」
継母は最上級の笑顔で言いました。
と、そこへ。
「お義母さま。ただいま〜。」
買い物に出掛けていた望美と継姉がタイミングよく帰ってきました。
二人を見た途端、家来達はパァッと笑顔になり、継母は小さく舌打ちをしました。
「おぉ!ナイスタイミング!ちょっと、そこのお二人さん。この靴を履いてみてくれよ。」
「靴・・・・・・ですか?」
家来の差し出した靴を見て、望美はビックリ仰天。
それは、舞踏会へ行った時、どこかに無くしてしまったと思っていたガラスの靴でした。
「そうそう。町でも噂になってるでしょ?花嫁探しも兼ねた舞踏会に来た、この靴の持ち主が王子様の花嫁になるんだよ♪」
「えぇぇっ!?花嫁!!??」
望美は更に驚いて大声を出してしまいました。
そこに集っていた皆は、その望美の反応に目を見張りました。
「の、望美?どうしたの??」
「この靴に見覚えでもあるんですか?」
「そ、それは・・・・その・・・・・・。」
「先輩。正直に答えてください。」
継母達の心配そうな顔に罪悪感を感じた望美は大きく頭を下げて言いました。
「ご、ゴメンなさい!!実は私、あの日舞踏会に参加したんです!!」
その告白に継母達は驚きました。
望美は素直に洗い浚い白状しました。
「私。どうしても舞踏会に行きたくて、そしたら魔法使いさんが現れて願いを叶えてくれて。
ドレスも、靴も魔法使いさんに出してもらったんです。本当に、ゴメンなさい!!」
半泣きになりながら謝る望美に継母達は言いました。
「望美さん。素直に話してくれてありがとうございます。僕達の方こそ、謝らなくてはなりません。」
「そうね。私達、実は嘘を吐いて貴女を舞踏会に行かせなかったのよ。」
「先輩が変なヤツに捕まったらいけないと思って。・・・・・・俺たちの方こそ、すみません。」
「皆、私の事を考えてくれてたんだね。ありがとう。」
望美は継母達と手を取り合って互いの思いやりの心に感激していました。
「あ〜・・・・・・。ジャマして悪いんだけどよぉ。」
感激に咽ぶ4人に、家来が声を掛けました。
「つーことは、つまり。この靴の持ち主はアンタってことで間違いねぇのか?」
望美が「はい。そうです。」と、答えようとした瞬間、継母達はすかさず言いました。
「あら?そんな事言いましたかしら?」
「望美さんは『舞踏会に行った』とは言いましたが。」
「自分のものだと言った覚えはありませんね。」
「「「人違いです」」」
3人は笑顔で答えました。
「いや・・・・。話の流れで認めたようなモンだろうが。」
家来が突っ込んでも、3人は意に介そうとはせず。
「さぁ。お話が終わりましたらさっさと、お帰り下さい。」
追い返そうとしました。
ところが。
「人違いかどうかは、靴を履いてみてからにしてもらおうか。」
「お、王子!」
家来の背後から突然、王子様が現れました。
望美は王子の姿を見て、「あっ!」と、声を上げましたが、継母達が透かさず望美を隠しました。
しかし、王子がそれを見逃すはずも無く。
「こんにちは。姫君。もう一度会いたかったよ。」
愛しげな眼差しを向けました。
そんな王子に継母が言いました。
「では、もう一度お会いしたのですから満足でしょう?お引取り願えますか?」
「城からのお触れを聞いてないのかい?『町中の娘、全員がこの靴を履くこと。』そう言ったはずだけど?」
「おやおや。職権乱用も、度が過ぎるんじゃないですか?」
「許容範囲内だと思うけど?」
継母と王子の間にブリザードが起こりそうなほどのオーラが醸し出されている中、
継姉達も言いました。
「大体、結婚を考えている女性を靴一つで判断されるなんて、王子さまも随分子供じみた発想ですのね。」
「10代から20代女性の平均的な足のサイズが一体、何人居ると思ってるんです?」
「顔くらい覚えていらっしゃらなかったのかしら?」
「靴が入ったら誰とでも結婚されるつもりだったんですかね?」
一切、遠慮の欠片も無い台詞に、王子は臆する所か涼しい顔で答えました。
「ふふっ。別に靴で判断したわけじゃないさ。俺のカラス達に調べて貰ったよ。姫君の居場所をね。」
「えぇっ!?それじゃ俺たち、町中の娘に靴履かせて回る必要なんて無かったんじゃないの?」
「何だよ、働き損じゃねぇか。」
「こうしたら、逃げようがないだろ?」
王子は望美にウィンクをしました。
「随分、悪どいことをなさるんですね。」
「その台詞。そっくりそのまま返すよ。」
未だ、王子と継母の間のブリザードは消える気配はありませんでした。
ですが、王子はそのブリザードに背を向け望美の元へ歩み寄りました。
舞踏会場でしたように、そっと望美の手を取って。
「あの時、伝え損ねた言葉を聴いてくれるかな?一生、お前を幸せにするよ。俺の、花嫁にならないかい?」
そう言って、王子は望美の手に軽く口付けました。
女性なら、誰もが蕩けてしまいそうなスマイルで、王子は望美を見つめました。
当の望美は顔を真っ赤にしていました。
継母達は残念そうに肩を落とし、王子は内心ガッツポーズを浮かべていました。
ところが。
「ご、ゴメンなさい!!」
望美は深々と、頭を下げました。
これには、一同ビックリです。
「あの舞踏会が花嫁探しの場だったなんて知らなくて・・・・・。私、ただご馳走が食べたかっただけなんです。」
「・・・・・ご馳走?」
「はい・・・・・。どうしても世界の三大珍味が食べてみたくて。」
「じゃあ・・・・。花嫁になりたくて来たわけじゃなくて・・・・?」
「やっぱり、場違いだったんですよね。本当にゴメンなさい!!」
望美が下げた頭を上げると、王子は真っ白になっていました。
家来達は王子にどう声を掛けたらいいのか解らずただずみ、継母達は小さく、口元を押さえて笑っていました。
「ふふ。そんなことなら言ってくださればよかったのに。」
「そうです。先輩の為なら世界の三大珍味だろうが、松坂牛だろうが、喜んで作りますよ♪。」
「遠慮なんてしないで、望美。」
継母達は一転して、ご機嫌です。
しかし、こんな事でへこたれる王子ではありません。
「では、姫君。城へ貴女をご招待しましょう。ご馳走も沢山、容易するしね。そして・・・・・・。」
王子はもう一度望美の手をしっかりと握り、
「俺の魅力も味わっておくれ。」
口付けをしそうな位、顔を近づけて言いました。
「では、お言葉に甘えて。」
継母は顔を近づけた王子の頭を鷲掴みにして望美から引っぺがしました。
「俺は、姫君を招待したんだけど?」
「おやおや?お忘れですか?僕は彼女の保護者ですよ?」
「・・・・・っ!」
「それとも・・・・・僕達が行ってはお邪魔でしょうか。」
継母は悲しげな顔を敢えて望美に見せながら言いました。
もちろん、心優しい望美は。
「そんなっ!邪魔なわけないです!!」
継母を必死に宥めます。
「王子様、皆も一緒じゃダメでしょうか?」
涙ぐみながら問う望美に、王子が反対できるはずもなく。
「・・・・・・姫君の願いなら、喜んで。」
苦しい笑顔で言うのでした。
「ありがとうございます王子さま☆良かったですね、お義母さま!」
「えぇ。なんて優しい王子さまなんでしょうねぇ。」
褒められても嬉しくない王子は引きつった笑いだけを浮かべていました。
こうして、王子さまに連れられて、望美達はお城で暮らすことになりました。
望美を誘惑しようとする王子への継母達からの妨害や、
隣国の王子達の予想外の求婚など多くのハプニングに晒されながらも、
幸せに、幸せに暮らしましたとさ。
将臣 「なぁ。これって『めでたしめでたし』なのか?」
景時 「う、う〜ん・・・・・・。」
おしまい。

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