Look me










学校の帰り。

友人と下校している望美の目に飛び込んで来たのは、校門に群がる少女達の群れ。



「え?何?あれ。」



望美はビックリしながらそれを指差した。

隣の友人も「さぁ?」と、首を傾げる。


有名人でもいるのだろうか。

女の子の歓声は耐えない。

皆、うっとりとした眼差しをしている。


「あの〜。これからお暇ですか?」

「番号とか教えて下さい。」


積極的に聞く彼女達に構う事無く、望美はそこを横切ろうとした。


たいして有名人とかに興味は無い。

それに、今日はヒノエと会う約束があるのだ。

こんな所で油を売ってる暇はない。


早く、早く、ヒノエに会いたいから。



ところが。



「悪いね。姫君達。俺はこれから大事な用事があるんだ。」



聞き覚えのある声に望美の耳が反応する。


群れの中心をよくよく見ると。

僅かではあるが赤い髪が目に入った。


もしかして。



「ヒノエくん!?」



望美の驚いた声にヒノエの表情が変わった。

先程から少女達に向けていたものとは違う愛しげな瞳。

周りに目もくれず真っ直ぐに望美の所に進んでいく。



「おかえり。望美。待ってたよ。」

「え?なんで??何で学校にいるの??」



望美の質問に笑顔を向け、

ヒノエは跪き、恭しく望美の手を取り口付けた。

まるで西洋の王子様のように。



「一時でも早く、愛しいお前に会うためさ。」



見上げるヒノエの視線は熱っぽく、お陰で望美の顔は赤くなり、倒れそうになった。

こんな王子様の様な事、他の人がしたら笑ってしまいそうになるのに。

胸が高まって頬を染めてしまう。

格好付けてる訳ではなくハマっているのは、きっとヒノエだから。




誰よりもステキな人だから。




けど。

ヒノエが望美の手に口付けた瞬間。

周りから悲鳴とも奇声ともつかない声が沸きあがった。


望美はハッとして慌てて手を引っ込める。


ここは学校の校門。


しかも下校時間で、いつの間にか帰る途中の生徒達が足を止めて望美とヒノエを見ていた。


呆気に取られながら。

さらに。



「春日さん、すげぇ。」

「あんな美形の彼氏にあんな事。中々させられないよね。」



と、ギャラリーの声が聞える。


望美はさっきとは違った色で顔が赤くなった。


羞恥心で。


ガッシリとヒノエの腕を掴み、群がる人々を掻き分けて

望美はヒノエを引きづるように、猛ダッシュでその場を後にした。







学校から離れた所で望美はようやくヒノエの腕を放した。

望美は全力疾走だったためゼェゼェと息を切らせている。

ヒノエはそんな望美を見て小さく微笑んだ。



「どうしたんだい?ひょっとして、早く二人きりになりたかったのかい?」

「ち、違うよ!!恥ずかしかったの!!」



望美は声を荒げながら抗議する。

その言葉にヒノエの顔が翳った。



「望美は、俺に口付けられるのが嫌なのかい?」



いつもの自信に溢れた姿とは正反対の姿。

あまりの事に望美は驚き、少し強く言い過ぎただろうかと、反省の気持ちになる。

それに、思い返せば校門でのときも恥ずかしかったからといって、手を引っ込めてしまった。


嬉しかったのに。


「・・・・・さっきは。ゴメンね?」


望美は少し目を伏せながら謝った。


「別に、ヒノエくんとキスするのが嫌なんじゃないの。」

「じゃあ、何が御気に召さなかったんだい?」

「だって。あそこは校門だし・・・・人がいっぱい居たし・・・・・・。」


キスされる事は嬉しい。

甘い言葉も、仕草も。

けれど、たくさんの人に見られて注目されるのは勘弁して欲しかった。



「そっか。分かったよ。」



ヒノエは望美に背を向けた。



「いつでも口付けたいなんて思ってたのは俺だけだったんだね。」



「ゴメン。」と言うと振り返らずに、ヒノエは歩み出そうとする。

そんな彼を望美は後ろから抱きしめた。

ギュッと抱きついたまま望美は零すように言う。



「本当は私だって・・・・・・。いつでもキスしたいよ・・・・・。」



いつでもこうして抱き付いて、抱きしめ合って、

たくさんキスをしていたい。



「でも・・・・・・・。」



どうしたって人の目が気になってしまう。

恥ずかしさを覚えてしまう。



「なら。簡単な事だよ。」



ヒノエは振り返った。


望美を抱きしめ、


考える暇など無いくらい


望美に口付ける。


そして、顔を離すとヒノエは望美の顔を両手で持ち、自分の顔を見せた。

柔らかに微笑み、こう言った。



「俺だけを見てればいい。」



只、俺だけを。







数日後。



「おかえり。姫君。」



下校しようとした望美をヒノエが待っていた。


またも、少女達に群がれながら。


あの次の日から。


望美は注目の的だった。


上級生も下級生も、休み時間などになると望美の元に訪れ

ヒノエの事を聞きに来るのだ。


校内には密かにファンクラブが出来たという、噂まで聞える。



「仕方ないですよ。ヒノエですから。」



譲もそう言って望美を励ましてくれたけれど。





群れの中から出てきたヒノエは望美を抱きしめた。


そして突然。



望美の唇へ、自分の唇を寄せる。



前回よりも、倍以上の悲鳴や奇声がこだました。



「ヒノエくん!?」

「望美もいつだってしたいんだろ?」

「だ、だから場所を・・・・・・。」

「関係ないね。」




   ――――俺は、俺のしたい時にするから。




「それに。言っただろう?」




   ―――-俺だけを見ていればイイって。




そう、ウィンクを送られてまたも、望美の顔は赤くなる。



「この前のしおらしい姿は何だったの?」


望美はジト目でヒノエを見る。


「あんな俺もイイだろ?」


ヒノエは嬉しそうにニヤッと笑った。


もう。と、呟きながら。それでも望美は笑顔になった。


嬉しいときの笑顔。

それを見て、ヒノエも上機嫌になる。


譲くんの言った通りだと、望美は思った。


これが、ヒノエくんだから。


恥ずかしいけれど、カッコいいから憎めない。

大好きだから、嬉しくなってしまう。



「さぁ。姫。今日はどちらへご案内しましょう?」

「う〜ん。ヒノエくんのオススメで。」

「フフフ。喜んで。」



楽しそうに腕を組み、二人は並んで歩いていった。





〜あとがき〜

バカップル万歳!!

校門でこんなイチャコラしていいんですかね(笑)


   
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