温もり










銀は火鉢を持って、早朝の廊下を歩いていた。

平泉の冬は寒い。

昼間は穏やかな日の光が照らしてくれるが、朝一番は身に染みるような寒さを体感する。

そんな寒さに望美を晒したくない思いから、彼は朝早くに高舘へやって来て火鉢の用意をしたのだった。



「神子さま。失礼致します。」



起きて居るはずが無いと、銀は返事を待たずに障子を開ける。

すると。



「あ。銀。おはよ〜。」



掛け布団を体に巻きつけて凍える望美が挨拶をしてきた。

銀はそれに、驚き目を剥く。



「おはようございます。神子様。・・・・・一体、どうなさったのです?」

「ちょっと寒くって。目が覚めちゃったんだよね〜。」



明るく笑って返事をするが、望美は小刻みに震えている。

銀は素早く、持ってきた火鉢を差し出した。



「神子様。こちらで少し暖をお取り下さい。」

「わぁ〜!!ありがとう、銀。」



望美は嬉しそうに火鉢の元へ寄った。

かざした手から、じんわりと温もりが伝わってくる。



「あったか〜い。」



望美は咲いたような笑顔になる。

それを見て、銀も笑顔になった。



「神子様に喜んで頂けたら早起きの甲斐がございました。」

「ホント嬉しいな。銀に何かお礼しなきゃ。」

「神子様の笑顔だけで、私には余る程のお礼でございますよ。」



銀の、正直な言葉は望美の顔の温度を上げる効果をもたらしたようで、頬がサッと色づく。

望美はそのまま、笑顔を向けて。



「それなら、ずっと笑顔でいなくちゃね。」



心から感謝が伝わるように。

そう、言った望美が愛しく見えて、銀は目を細めた。



「神子様は、まことに可愛らしいお方ですね。」

「え?そ、そうかな?」

「はい。その笑顔を独占してしまいたいと、不届きにも思ってしまいます。」



ずっと傍にいて、誰にも見せる事無く、自分の胸の中だけに閉じ込めてしまいたいという願望を掻き立てる。

なんて、罪作りな可愛い方。



銀はそっと、望美の頬に触れた。

忽ち、望美の心臓が跳ね上がる。



「少し、温まって参りましたね。」



そうとだけ言い、望美の頬を優しく撫であげて、銀はニッコリと微笑んだ。



「う、うん!!そうだね。結構温かくなったかな?ア、ハハ・・・・・。」



明らかに動揺しながら返答する望美。

愛しさを含んだ仕草に思いがけない期待が胸をよぎる。


私の事が、好き?


『まさかね。』



期待半分、否定も半分。

すると、そんな望美を優しい温もりが襲う。

銀が、望美を後から抱きすくめたのだ。



「し、銀!?」

「神子様のお体が早く温まりますよう、お手伝いを致しましょう。」



そう言って、銀は少し腕の力を込めて望美を、もっと抱きしめる。

抱きしめられる力に比例して、望美の鼓動と体温はどんどんと上昇した。

銀の『お手伝い』は功をそうしたようで、望美は見事なゆでだこ状態へと変貌する。



「いかがなさいました?神子様。」



湯気がでそうな望美の顔を覗きこみながら銀は素知らぬ顔で聞いてくる。



「な、何でもないよ!!」



嬉しいけれど、眩暈が起こりそうな困った状況の望美だが、平静を装いながら答えを返す。

銀はそれを、口元だけで微笑んで見つめた。

どんな姿も可愛く見えて、愛しさが募って。

このまま時が止まれば良いと、願わずにはいられない。

だが。



「神子様。ご無用になられましたらお教え願えますか?」



途端に銀が淋しそうに言う。

いつまでも、こうして抱きしめていたいが、そういう訳にもいかない。

容赦なく時は過ぎて、銀は望美の元を去らねばならないから。

すると、望美が面映い声で銀に問うた。



「ずっと、必要だったらどうすればイイの?」



望美はギュッと銀の手を握る。


いつまでも、こうして抱きしめていて欲しい。


そんな気持ちの表れ。

それを知って、銀の頬が一気に緩んだ。



「神子様のお心のままに。」



銀はもう一度少し力を込めて望美を抱きしめる。

望美も、それに応えるかのように彼の手をギュッと握る。



外は一切の音も無くて、世界にたった二人きりのような感覚。

寂しさは微塵も無い。

あるのは、暖かな温もりとそれ以上に暖かい気持ち。



「銀。あったかい。」



望美は幸せそうに言う。



「私も、神子様のお陰で、温まって参りましたよ。」



銀が優しく返す。


互いの温もりを分け合おう。

愛しさと同じくらい。


望美はそっと、銀の胸に顔を寄せた。



〜あとがき〜

片桐は後ろから抱きしめられるシチュエーションに萌えます。
遙か2の勝真さんのような☆


   
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