Sugar Baby










「はぁ・・・・。ちょっと買いすぎたかも。」



両手一杯の荷物を見ながら望美は少し後悔の入り混じった溜息を吐いた。

いくら、お気に入りのショップが「安売り」という宣伝をしていたからとはいえ、

この量は買いすぎたかもしれない。

最大サイズの紙袋が4つに小さめの紙袋3つ。

そして、全て服だとしても大量に買えば結構な重さになる。

両手にズシリと感じる重さ。



「でも、もう帰るだけだし・・・・・。大丈夫だよね?」



そう自分を励まして、望美は手提げの紐をギュッと握りなおし

ショップの自動ドアから表へ出た。



「知盛〜。ごめんね。お待たせ。」



ショップから少し離れたベンチに座っていた知盛に望美は一生懸命手を振る。

けれど荷物の重さで思った以上に手を上げられずかなり中途半端な位置で手を振った。

知盛は直に望美を見つけると真っ直ぐに歩いて来る。

そして彼女の様をジッと見つめた。



「・・・・・・随分な力技だな。」

「うっ・・・・・・。」



反論は出来ない。

自分でもこれだけの荷物を持てる事に若干の感動を覚えたくらいだ。



「安かったから、つい・・・・・。」



しょぼくれた顔で望美がうつむくと、何の前触れもなく知盛は彼女の両手から荷物を掻っ攫った。

一気に開放された重量感に、望美が呆気にとられていると知盛はズカズカと一人で歩き出す。

ワンテンポ遅れて、望美は慌てながら知盛を追いかけた。



「ちょっと!何してるの!?」

「・・・・・見ればわかるだろう?」

「分かるけど・・・・・。」

「なら、聞くな。」



知盛は歩速を緩めず歩き続ける。

そんな彼の腕を掴みながら、望美は激しく首を横に振った。



「駄目!駄目駄目!!自分で持つ!!」



必死の抗議に、知盛も流石に歩みを止めると

少し眉間に皺を寄せた、不機嫌顔で望美を見返した。



「・・・・・何が不満だ?」

「だって、自分の持ち物だから。自分で持つ。」

「人の好意を無下にするのか?」

「知盛に荷物持ちさせるために一緒に来たんじゃないもん。」



ただ、一緒に居たい。

その為のデート。



「た、確かに。買い過ぎなのは認めるけど・・・・・。」



語尾を弱めながら沈む望美の目の前に、知盛が袋を一つ突き出した。



「・・・・・・半分だ。」



これなら文句ないだろ?と付け加える。

望美は小さく頷くとその袋を手に取った。

すると、知盛はもういちど進行方向に向き直って再び歩き出す。

望美もそれに倣って小走りで彼の横に並んだ。

差し出された荷物は全体の半分にも満たないくらい軽くて、一番小さな紙袋。

腕が痛くなるはずも無く、そんな知盛の気遣いに望美は申し訳なさの反面嬉しさも覚えていた。



「知盛って、意外と紳士・・・・・・。」

「意外、とは失礼だな・・・・・。」

「だって、キャラ的に『・・・・・誰が持つか。』とか、言いそう。」



そういいながら、望美は両方の人差し指で目尻を上げ、

精一杯声を低くして知盛の声と顔を真似る。

そんな望美が可笑しくて、知盛は「くくっ・・・・。」と笑った。



「下手だな・・・・・。」

「えっ!?結構自信あったのに。」



心外だったのか、望美はもう一度目尻を上げて「あ〜あ〜。」と低い声を出す。

そんな事をしていると、足元にある小さな段差に気付くはずも無く、

望美は足を引っ掛けて前のめりに転びそうになった。

だがそれを、知盛は望美の腰を抱くように捕まえて間一髪で止めた。



「・・・・ご、ごめん。」



体勢を立て直して、謝る望美に知盛はニヤッと笑って。



「・・・・・・周りが分からないくらい俺のことを考えていたのか?」



そんな問いに、ボンッと爆発するように望美の顔は赤く染まった。

その変化に知盛は、愉快気に笑う。

確かに、彼の事を考えながら歩いていたのは事実で、否定出来ない。

赤くなった顔と忙しない鼓動を誤魔化すために望美は懸命に平静を装う。



「と、知盛って何だかんだで甘いよね。」



荷物にしたって、今だって。

彼は何だかんだ文句を言っても優しく、寛容だ。



「それが、どうした?」



知盛は意にも介さず問い返す。



「・・・・・・惚れた女に甘くて何が悪い。」



一切悪びれる事無く、言った台詞に望美の胸はドキンと高鳴った。

見つめる瞳の柔らかさが、胸の高鳴りを最高潮に高めて行く。

本当に、知盛は甘い。

甘くて、甘くて。

蕩けてしまいそう。

こんな風に見つめられて、そんな台詞を口にされたら。

いつもの意地っ張りな仮面が取れて、もっともっと甘えたい欲求に侵食されてしまう。

望美はそっと手を伸ばすと、知盛のシャツを小さく引っ張った。



「・・・・・・どうした?」



知盛がチラリと見やった先には、

視線を斜めに落として紅色の頬のまま恥ずかしそうな望美。

「あ、あのね・・・・・。」と遠慮がちに口を開く。



「それじゃあ・・・・・・。もう一つ甘えてもいい?」

「・・・・・なんだ?」



望美はそっと右手を差し出す。

そうして、恥じらいを含んだ声で言う。



「手・・・・・つなぎたいな。」



その申し出に知盛は一瞬虚をつかれたように目を見開いた。

視線を彷徨わせながら、遠慮がちに甘えてくる望美は

一瞬、思考が停止しそうなほど可愛らしくて。

このまま抱き寄せて、口付けてしまいたいほど知盛の理性を掻き乱す。

が、知盛は小さく深呼吸をすると、無言のまま、望美の手を取った。



「・・・・・ここでは何も出来ないからな。」

「え?」

「何でもない。」



ボソリと言った言葉の真意に首を傾げるが知盛は只、口元を綻ばせただけで解らなかった。

けれども、空っぽだった掌に添えられた大きくて暖かな手に望美は嬉しそうに目を細める。

太陽のようなご機嫌な笑顔を知盛に向けて、つないだ手を大きく振りながら

スキップしそうな程元気に歩いた。



「・・・・・・あまり振り回すな。」

「は〜い♪」



知盛の忠告も実を結ぶ事無く、望美は尚も手を振る。

言うほど、嫌でもなかったらしく知盛はそれ以上何も言わずに手を振り回され続けた。

傍目からでも判るほど甘さと幸せも、ふんだんに振りまきながら。




〜あとがき〜
甘える望美ちゃんと、甘やかす知盛。
オタ友絃仍さまから頂いたご意見「たまには甘える望美チャンも読みたい」
で、出来たよ!
甘えてみました。
やれば出来るじゃんアタシ!!


   
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