言って欲しいの










自室で望美はベッドに寝っ転がりながら雑誌に目を通していた。

年頃の女の子がよく読む雑誌でファッションの事やら恋愛の事について書かれている。


その中の1ページが、望美の目を釘付けにした。




『3年目のジンクス!?こんなカップルは気をつけて!!』




「こんな特集もどうなの?」


そうぼやくクセに気になってしまうのも事実で。

望美はタイトルの下にあるいくつかのチェック項目に目をやった。


『○か×で答えてね。○の数が5個以上だと危険信号!!』


 □ 最近、彼との時間が少ない。


「う〜ん・・・・・・将臣くんバイトしてるからなぁ。でも休みの日はデートするし。×。」


 □ メールの返事が遅い。


「返せる時はすぐ返してくれるから×。」


 □ 一緒に居るときも放って置かれる。


「それは無いなぁ。×。」


 □ デートがワンパターンだ。


「これも無い。×。」


 □ 記念日を覚えていない。


「う〜・・・・・・・・・誕生日とかくらいは覚えてるし・・・・・。△?」


 □ 会話が盛り上がらない。


「あり得ない。×。」


 □ 待ち合わせなどの時間を守らない。


「遅刻は将臣くんってより私だし、お隣だもん。×。」


 □ 髪型の変化などに気付いてくれない。


「ん〜・・・・・・。△。」


 □ プレゼントを貰わなくなった。


「クリスマスも誕生日もくれたから×。」


 □ 最近、「好き」と言われてない。


「・・・・・。」



ふと、最後の項目で望美の手が止まった。


そういえば最近、将臣の口から『好き』だなんて聞いた覚えが無い。


「言われて見れば。そうだなぁ。」


余り気にしていなかったが、こうして問われると少し考えてしまう。


でも、将臣はいつも時間の在る時は会ってくれるし、

行きたいと思った所に連れて行ってくれる。

デートの時も恥ずかしがらずに手をつないでくれるし、

キスもしてくれる。

いっぱい他愛ない事を話して、笑顔にしてくれる。

プレゼントも結構奮発して、良いものをくれた。


でも、『好き』は?


言葉として言われた事は余り無い。



「でも、付き合ってるって事は『好き』なわけだし・・・・・・。」



改めて聞かなくても彼の態度で十分それは伝わるのだが。



「やっぱり言って欲しいなぁ。」



ついつい、欲張りな願いが浮かんでしまう。

言って欲しいと、言えば言ってくれるのだろうか?

だが、望美はすぐに首を振る。



「ダメダメ。お願いして言われたって嬉しくないもん。」



自然と、強要されることなく彼の口から聞きたいのだ。

それをお願いしてしまっては意味は無い。



「どうしようかな・・・・・?」

「何をどうするんだよ。」



部屋の入り口に立ち呆れたように望美を見る将臣がいた。

突然の将臣の声に望美は驚きの余り飛び上がりそうになる。



「な、何!?びっくりした〜。」

「よぉ。何、夢中になって読んでんだ?」



将臣は手土産と言って望美にスーパーの袋を渡した。



「べ、別に何でもないよ。それより何買って来てくれたの?」



望美は慌てて、雑誌をベッドの上に放り、手渡された袋を探った。

まず出てきたのはカップ麺。



「コレって自分用?」

「おぉ。腹減ったんだ。お湯くれよ。」

「あ。プリン!!って、スプーン無いよ?」

「んじゃ、ついでに取ってこいよ。」

「私が?」

「お前ん家だろうが。」

「うっ・・・・・。」



仕方ないと、望美は立ち上がりキッチンへ降りていった。

部屋に残った将臣の目に入ったのは、さっきまで望美が読んでいた雑誌。



「何を読んでたんだか。」



暇潰しにパラパラと捲り出した。





お湯を入れたカップ麺とスプーンを持って戻ってきた望美は思わずひっくり返しそうになった。



「な、何読んでるの!?」

「ん?コレ。」



将臣が見せたのはさっき望美が夢中で読んでた特集ページ。

望美は将臣の反応をうかがうようにチラリと見る。

将臣は「ふ〜ん。」と言いながらスナック菓子をつまんでいた。



「しかし、スゲェなこの項目。大抵の男が引っかかるんじゃねぇの?」



将臣はケラケラ笑い出した。



「どの辺が引っかかるの?」



望美は落ち着いたように心がけながら聞く。

すると、将臣はココ、とある項目を指した。


 □ 最近、「好き」と言われてない。


望美は一瞬ドキッとした。


「大体、男はあんまり言わねぇって。」


そう言うと将臣は雑誌を横にやり、袋から箸を探し出した。

望美は解せない顔で将臣を見る。


「でもさ。ヒノエくんとか白龍は言ってくれたよ?」


と、昔の仲間の名前を挙げた。

しかし将臣は。


「あれは特殊な例だから。一緒にするなよ。」


と、しか言わない。

望美は首を傾げる。

何で言わないのだろう。

カップ麺を啜り始めた将臣の横で望美は一つの考えが浮かんだ。

でも、きっと違うって言われるに決まってる。

冗談で言ってみようと将臣を見て言った。



「ひょっとして、『好き』って言うのが恥ずかしいとか?」

「ブッッ!!!!」



将臣は突如、啜っていたスープを吹いた。

同時に、咽てしまったようで胸を叩きながらお茶を飲み込んでいる。

辛うじて、床のラグには掛からなかったが、望美は将臣のその姿を見てポカンとしていた。

そして。



「・・・・・・そうなんだ。」



と、納得した。



「お前なぁ・・・・・。」

将臣は少し冷や汗を流しながら望美を見た。

望美はなんだか可笑しくて、ニヤニヤしてしまう。

すると、将臣が望美の目の前のプリンを取った。



「没収。俺が全部喰ってやる。」



と、蓋を勝手に開け始める。


「あぁぁ!!!ちょっと!何すんの!?」



望美は慌てて取り返そうと将臣に掴みかかる。



「もともと、俺が買ったモンだろ。」

「ダメ!貰った物は私の物!!」

「プリン1個でケチんな。」

「どうせ、ケチです〜。って、あ〜!!食べた!!」








仕草や言葉の端々に、想いは見え隠れする。

たった二文字の言葉だけど。

とても、大切な言葉だと思うから。


たまには言って欲しい。


私も貴方が『好き』だから。






〜あとがき〜

チェック項目は片桐の旦那を思い浮かべながら考えました(笑)

ウチの旦那は全部当てはまります。ワオ!離婚の危機か!?

好きって言葉は意外と言わない人が多いのでは?将臣のその内の一人な気がします。

改めて言う必要が無いから。

でもね。聞きたいもんなのよ。



   
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