ただ、こんなにも君が愛しい










触ってなんて欲しくない。

誰にも、何にも。

特に、自分以外の男なんて論外。

笑顔も、優しさも、全部、全部。

俺だけのモノであったなら良いのに。




「わぁ!スゴ〜イ!!」



熊野の暑さの中、少しでも涼を取れれば良いと那智の滝へやって来た。

その迫力ある滝に望美は目を輝かせながら歓声をあげる。



「こんな大きな滝見るのって初めて!ありがとうヒノエ君!」

「姫君が喜んでくれるならここまでお供した甲斐があるってもんだよ。」



最上の笑みで答えると、望美も負けないくらいの笑顔を返した。

可愛い望美。

心も、見た目に負けないくらい美しくて、惹かれない野郎なんていやしない。

現に、神子に付き従う八葉の連中だって誰も彼も望美に惹きつけられちまってる。

まぁ、俺も含めてなんだけどね。



「望美さん。こちらからの眺めもなかなかですよ?」



ほら、言った側からコレだ。

ヒノエは心の中で舌打ちをする。

望美は弁慶の誘いに笑顔を綻ばせた。



――――― 気に入らない。



他の男が、望美を呼ぶのが気に入らない。

俺以外の奴が望美の笑顔を独占するのが気に入らない。

ガキっぽい事だなんてわかってる。

解ってるけど・・・・・・。




止められない。




募れば募るほど。

思えば思うほど。

頭の中は望美の事ばかりになってしまう。

自分でも思う。

情けないくらい、幸せな奴だって。

お前を、愛せる幸せを、誰にも渡したく無い。

そんな気持ちが現れてしまったのか、弁慶の下へ行こうとする望美の腕を

ヒノエは無意識で掴んでしまった。



「え?」

「あ・・・・・・。」



もちろん望美は驚いて首をかしげた。

ヒノエは、ハッとして望美の腕を放す。



「ヒノエくん?」

「何でもないよ。姫君。」



いつもの余裕たっぷりの笑顔を作った。



かっこ悪ぃ。



ヒノエは頭の中で自責する。

こんなの、らしくない。

もっと、余裕で。

恋をするより、させるのが今までの自分なのに。

誰の元にもいかないで、隣にいて欲しくて。

必死に握ったその手は、なんて愚拙なのだろう。

と、そんなヒノエの手が、暖かな何かに包まれた。

見れば、望美が優しい顔で、そして嬉しそうにヒノエの手を握っている。



「ヒノエくん。一緒に行こう?」



望美の要求にヒノエは胸が弾むのを感じた。

この上なく幸せで

幸せ故に、心が熱を帯びて行く。

どうして、こんなにも愛しいのだろう。



「姫君のお誘いなら喜んで。」



ヒノエの返事に望美も弾んだような笑顔をした。


そうして、俺の手を引いていくお前の手が、

なんだか熱く感じる。

これは、自惚れてしまっても良いのかな?

お前が俺を思う気持ちの熱さだと。

俺と同じくらい。

お前も思ってくれているんだと。



   
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