願い事










「敦盛さ〜ん。」


大きな声で呼びとめられた敦盛は何事かと、振り返った。

声の主は望美。

元気良く走ってくる姿に愛らしさを感じる。

嬉しそうに駆け寄った望美は一枚の紙切れを渡した。


「はい。敦盛さん。お誕生日おめでとうございます。」

「誕生日?」


聞きなれない言葉に敦盛は戸惑った。


「はい。今日は敦盛さんの生まれた日でしょう?」

「あぁ。確かに生まれた日だが。」

「だから。お祝いするんです。ちなみにそれがプレゼント。」


望美は今しがた、敦盛に手渡した紙切れを指差した。


「ぷれぜんと??」

「あ。贈り物って事です。」


紙切れには拙い筆跡で


『一日召使い券』


と書かれていた。


「神子。これは一体・・・・。」

「えっと。何をあげたらいいかわかんないし、手持ちもあんまり無いっていうか・・・・。」


望美は視線をさ迷わせながら説明する。

敦盛に誕生日プレゼントを贈ると決めたのは2〜3週間前からだった。

大好きな人の誕生日。

気合が入らないわけが無い。

ココはやっぱり定番にケーキとか手作り料理かな?

とか考えては居たのだが・・・・・。


見事に惨敗。


ならば、手作りで小物等を作ろうと試みるも


またまた惨敗。


既製品もあり!!と市を覗き込んでみたが

どれもこれも望美の手持ちでは買える代物ではない。

気品が滲みでている敦盛に安物をあげるなんて恥ずかしい事は出来ないし・・・・・。

いろいろ熟考した結果・・・・・・。


『一日召使い券』


などという、子供でも考えなさそうなプレゼントしか用意出来なかった。



「あの。今日一日だけですけど・・・・何でもします!だから何でも命令して下さい!!」


こんな贈り物で申し訳無いと言わんばかりに望美は頭を下げた。

一方の敦盛は正直、困っていた。

八葉という立場から、仕えているのは自分なのだ。

そんな自分が神子―――――つまりは自分の主とも呼べる相手に命令など・・・・・。


「神子・・・・。その。すまないが、私には出来ない。」


敦盛のその言葉に望美は悲しそうな表情で頭を上げた。


「そ、そうですよね・・・・。こんな子供だましみたいな贈り物。ごめんなさい。」


望美の瞳が潤み出したのを見て、敦盛は慌てる。


「いや。そうじゃないんだ!贈り物は嬉しいのだが、私が神子に命令するなんて失礼にあたる。」

「え?」


望美はキョトンと敦盛を見た。


「その・・・・。私は神子に仕える八葉だから命令は出来ない。だから・・・・」

「分かりました。」


今度はニッコリと、望美は笑う。


「だったら、お願いしてください。」

「お願い?」

「はい。それなら命令じゃないでしょ?今日は敦盛さんのお願いを何でも聞くって事で。」


その申し出に敦盛も朗らかな笑みを零す。


「そうか。では。願っても良いだろうか?」

「はい。どうぞ。」


どんな願い事をされるか望美はワクワクしながら聞いている。

そんな姿が愛らしくて敦盛は笑みを深めた。


「では。私に神子をくれないか?」


と、言われた途端、望美は目をパチクリさせる。


「へっ!?」


思っても見なかったセリフに驚きを隠せない。

敦盛は望美の反応を見て、自分の言った言葉を思い返し、カァーっと顔を赤く染める。


「あ、あの。敦盛さん・・・・。」

「す、すまない!言葉が足りなかった!!今日一日、共に過ごしたいという意味で・・・・・・。その。」


見るからに動揺する敦盛が何だか可愛らしい。

クスリと、軽く笑い望美は顔を覗き込みながら敦盛に問う。


「一日だけですか?」

「え?いや・・・・・。」

「私はいつも一緒に居たいですよ。」


そう言った望美が、いつも以上に愛しく思えて。


「私も、いつも神子と共に居たい。」


普段は口に出来ない言葉が口を吐く。

言ったと同時に望美は、はにかんだ笑顔を見せた。


「じゃあ、プレゼントは私って事?」


敦盛さんがそんな事を言うなんて意外だけれど、凄く嬉しい。


「神子。・・・・すまない。」


不躾な願い。

反省はしているが、その願いを叶えてくれた嬉しさの方が心を占める。

その気持ちが、表情にまで出ているかのように敦盛は幸せそうな顔になった。


「それじゃあ。私の誕生日プレゼントの前払いって事で、敦盛さんを下さい。これでおあいこ。」

「あぁ。もちろん。」


――――――喜んで。


敦盛と望美は、互いに微笑み合った。


「おめでとうございます。」

「ありがとう。」


   
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