オレンジ










夕焼けに染まる教室。

そこに、将臣は一人、雑誌を読みながら座っていた。

放課後の校内に人は殆ど居ない。

それでも彼がそこに居るのは、職員室に行った望美を待っているためである。



「ゴメン!将臣くん待った?」



息を切らせながら望美が教室に入ってくる。

将臣は顔を綻ばせて、望美を迎えた。



「もう用事は済んだのか?」

「うん!大丈夫!」



やっと担任から開放された望美はいそいそと、帰り支度を始める。

それに倣って将臣も読んでいた雑誌をカバンに放り込んだ。

そして立ち上がり、カバンを担いで行こうとする将臣を望美が慌てて止める。



「ちょっと待って。」

「ん?なんだ?まだ何か用事があんのか??」



将臣が振り返ると、望美は「えへへ。」と笑いながら何かを差し出す。



「はい。将臣くん。」



そう望美が手渡したのはキレイにラッピングされた小箱だった。



「?なんだコレ??」



将臣は不思議そうに小箱を受け取る。

「もう!」と、望美は少し怒ったように言った。



「今日は将臣くんの誕生日でしょ!?だからプレゼント!」

「おぉ。そっか。忘れてたぜ。」

「自分の誕生日忘れるなんてありえないよ?」

「いいんだよ。お前がおぼえてくれてるんだからさ。」



――――― イチバン祝って欲しいお前が覚えてるだけで、嬉しいぜ。



呆れ顔の望美の頭を撫で、将臣は笑った。



「コレ、開けてもいいか?」



望美は、もちろんと、頷く。

リボンを解き、箱を開けると、中には。

防水加工の施された、腕時計が入っていた。



「それなら海の中でもつけてられるデショ?」



望美は得意げに胸を張る。



「ついでに待ち合わせの時間にも遅れないだろうし。」



軽く咎めるように付け足した。

それに、将臣はニヤッと笑う。



「なるほど。色々、考えたわけだ。」

「そうだよ。気に入った?」

「あぁ。」



将臣は望美の腕をぐいっと、引っ張った。

将臣の胸に飛びつくような形になる。

そうして、望美の顎を軽く持ち上げると、柔らかな口付けを落とした。




夕焼けのオレンジみたいに

暖かく、包み込むような

そんな口付け。




顔を離すと、将臣はとても嬉しそうに微笑む。



「ありがとな。」



望美は少し照れながら、将臣の胸に抱きついた。



「将臣くん。誕生日おめでとう。」










―――――帰り際。



「自分の誕生日を忘れるんだから私の誕生日も覚えて無いでしょ?」

「バーカ。ちゃんと覚えてるよ。」



つん、と望美の額を突っつく。



「ホント?じゃぁ。期待しててもイイ?」

「おぉ。任せとけって。」



将臣は自信深げに言い、望美はクスクスと笑った。

夕焼けのオレンジ色に染められながら。

仲良く、家路に着く。





〜あとがき〜
兄貴!誕生日おめでとうございます!!
プレゼントは何がイイかなと、考えたとき、真っ先に思いついたのは時計でした。

何でって?

いや。兄貴のことだから待ち合わせ時間とかきっと適当なんだろうなとか、思ったら。

ついつい。


   
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