寒い夜にはアナタの温もりを
昼間は陽気が差し込む政務室も夜ともなればまだ、寒さが染み入る。
宮の者たちは大抵が眠りに付いた刻限であるのに、そこからは光が零れていた。
千尋と柊は、日中に整理し切れなかった書類を片付けている最中。
王になったと言っても、以前暮らして居た世界ではまだ高校生の彼女にとって、
それらは夏休みの課題以上に大変だった。
「・・・・・クシュン!!」
夜風に当てられ、千尋は大きなくしゃみをした。
「姫。夜風は体に障ります。こちらを・・・・・。」
柊は、フワリと暖かな肩がけを千尋に掛ける。
「ありがとう。柊。」
感謝を述べる微笑を贈られて、柊の胸が灯ったように暖かくなった。
「あ。柊は寒くない?」
「フフ。私は、姫の笑顔と暖かなお心遣いだけで春暖のようです。」
「そ、そう?でも、寒くなったら言ってね。」
「おや。それでは、姫が暖めて下さるのですか?」
「えっ!?そ、それはっ!」
顔を赤く染め上げる千尋の愛らしさに柊は更に胸が温かくなるのを感じた。
初めて出会った時のような暖かな感情。
それが、一体何物だったのかあの時は分からなかったが今ではハッキリと分かる。
愛しいと、心が叫んでいる。
王としてでなく、それ以前に一人の女性として、彼女が愛しいと。
心はその思いだけで独占されているかのようだ。
目の前でまだ狼狽する千尋の頬を柊はそっと撫でた。
「・・・・フフ。そのように、まごつくお姿も愛らしいですが少々戯れが過ぎましたね。
姫、冗談ですよ。お気持ちだけで十分に暖かくなりました。」
「う、うん・・・・。」
無意識で覗く、残念そうな千尋の表情に柊は思わず笑みを深くした。
「それとも、・・・・・本当に暖めて下さいますか?」
千尋の思いを窺い見るように、ゆっくりと顔を寄せる。
互いの瞳に自分の姿を確認出来るほど間近になった距離に、千尋は無言のまま朱色の顔へ変化した。
その初心な反応に、柊の心臓が跳ね上がる。
愛しい。
愛しい。
痛いほどに心が叫ぶ。
「姫・・・・・。いまだけ、この不届き者をお許しください・・・・・・。」
そういって赤い唇に軽く口付けをした。
ほんの一瞬だけの、可愛らしいキス。
只それだけで、千尋の体温は一気に上がった。
柊は優しく笑んで千尋を抱き寄せる。
体中で彼女を感じるように丁寧に抱きしめた。
くっつき合った体は、心拍数を上げる反面。
千尋と柊の心を満たして、溶かしていく。
「お慕いしていますよ。姫。」
優しく、耳打ちをすると千尋は無言のままコクリと頷く。
返事は、真っ赤なその顔が答えのようで。
柊は、幸せそうに笑った。
夜風が気にならない程、体と心に熱が灯ると。
柊が掛けた肩がけが、役目を終えたようにフワリと
足元に落ちた。

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