第2話  薬師現る










「と、とりあえず。追っかけてみよう!!」


呆然としていた望美はコホンと咳払いをして九郎そっくりなウサギが入っていった穴を見た。


ここで只立っていても埒が明かない。

それなら進んで見よう!

何より、あんな可愛い九郎さんをもう一度見たいし。


と、望美はワクワクしながら穴を覗きこんだ。

穴はとても小さく、屈み込みながらでないと通れない。

望美は小さく頭を下げながら穴の中へ入って行った。

しばらくはトンネルのように真っ直ぐな道.

だが突然、道は行き止まりになり、足元には大きな落とし穴が出てきた。



「え?ココから落ちろってこと??」



穴はとても深くて底なしのように見える。

こんな所から落ちたら一たまりも無いのでは?

望美はゴクリと唾を飲み込んだ。

しかし。望美の負けず嫌いな性格から『引き下がる』という事はできない。

こうなったら女は度胸!

望美は勢いよく落とし穴に飛び込んだ。








「・・・・・・・・・。」

穴は思った以上に深く、いつしか落ちていくスピードもゆっくりしていた。

あんなに決死の思いで飛び込んだのは何だったのだろうかと、望美は言葉も無い。

そうして、ゆっくりと落ちて行きやっと足を地面に着くことができた。

着いた先は薄暗く、目が慣れるのに少し時間が掛かりそうだった。



「え〜っと。ここからどう行くのかな?」



慣れた目でキョロキョロと見渡すと、数メートル先に先程のウサギ耳の九郎を見つけた。

彼は大急ぎで走り、明かりの漏れている部屋へ入っていった。

望美に気付く気配は全く無い。

望美は急いで後を追った。






部屋に入ると、ウサギ耳の九郎は彼が通れるほどの小さな扉に入って行った。

どうやったって望美が通れる大きさではない。



「どしようコレ。」



無理矢理入ったらきっと抜けなくなってしまう。

そんな恥ずかしい事は出来ない。

でも・・・・・。



「ふふふ。何かお困りですか?」



背後から優しい穏やかな声が聞こえた。

望美が振り返るとそこには黒い外套を被った黄色い髪の穏やかな青年が立っている。



「弁慶さん・・・・・ですよね?」



すると、青年はニッコリと柔らかに微笑んだ。



「えぇ。そうですよ。」

「どうして弁慶さんがこんな所に居るんですか?」

「それは内緒です。ところで何か困っていたようですが?」



話を逸らすかのように弁慶は望美に言った。



「そうなんです。この扉の向こう側に行きたいんですけど、小さすぎて私じゃ通れないんです。」



望美は足元の扉を指差した。



「なるほど。確かにこのままでは通れなさそうですね。」



弁慶はチラリとその穴を確認すると袖の下をゴソゴソと探り、小さなビンを取り出した。



「実は僕。偶然にも小さくなる薬を持っているんですよ。(ニッコリ)」

「えぇ!?小さくなれるんですか?」



胡散臭さ100%なのにも関わらず、望美は弁慶の手の中の小瓶をジッと見つめる。



「ふふふ。随分熱い視線ですね。」

「弁慶さん。この薬、貰えませんか?」



幼い子供のおねだりの様に望美は弁慶を見上げた。

すると、弁慶はあっさり。



「えぇ。どうぞ。君に差し上げますよ。」

「本当ですか!?わぁ。ありがとうございます。」



望美は手放しで大喜びだ。



「その代り、僕も頂きたい物があります。」



そう言いながら弁慶は望美の手を取る。



「はい。何が良いですか?」



タダで貰うのも悪いと思っていた望美は笑顔で弁慶の返事を待った。



「君の唇を頂きたいです。」

「・・・・・・・・・え?」



予想外の返事に望美は思考が停止した。

目をパチクリさせる。

すると、そんな望美を見て弁慶は笑いながら小瓶を渡した。



「ふふふ。冗談ですよ。
半分は。



小さく付け足された言葉に気付かずに、望美の停まっていた思考が再始動する。



「も、もう!そんな冗談やめて下さい!」

「すみません。君が可愛かったもので、つい。」



そう、褒め言葉を言われれば悪い気はしない。

望美は少し拗ねたまま抗議するのをやめた。



「とりあえず。早くしないと九郎さんを見失っちゃうんで、コレ頂きます。」



そう言うと望美は弁慶がくれた薬をグビッと一飲みした。

すると・・・・・・・。



望美の視界がドンドン下がっていく。

たった数秒で望美は扉を通るには十分な程の小ささになった。



「すごい・・・・。」



さっきまで見下ろしていた扉が今はとても大きい。

でもこれでやっと後を追いかけられる。



「弁慶さん。ありがとうございます。」

「いえ。気を付けて行って下さいね。」

「はい。それじゃっ!」



望美は弁慶に別れを告げると、元気よく走って行った。


弁慶の企み笑いだけを残して。




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〜あとがき〜
今回は弁慶さんの登場です。

小さくなる薬=弁慶お手製の胡散臭い薬

と、片桐の頭の中で勝手に位置づけられてしまいました。
さてさて。これからどうなることやら・・・・・・。



 
   
  
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